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――雪吹冰、ダブルブリザードか。すげえ冷てえ名前だな。きっと溶かすのに苦労する。
冰にとって、まだ自身の抱える苦渋の思いを誰にも打ち明けられずに、孤独の渦中でもがいていた時だ。氷川に対しても素直になれずにいたその頃が、遠い昔のことのようにも思えて、懐かしささえ感じられる。裏を返せば、それ程に今が幸せなのだということをしみじみと実感させられる。冰は思わず目頭が熱くなるのを抑えるかのように、とびきり朗らかに微笑んだのだった。
「さて――と、それじゃそろそろ出掛けるとするか」
「焔、親父さんたちに伝言があれば伝えるが」
僚一と飛燕がそう言いながら席を立つ。
「そうだな、俺も近い内に冰と――それに遼二と紫月を連れて一度親父のところへ顔を出そうと思ってる。よろしく言ってくれ」
氷川は冰の肩を抱き寄せながら言った。
「おお、伝えておくぜ。焔、冰――うちのボウズ共をよろしく頼むな」
僚一はヒラヒラと手を振りながらも、「そうだ」と言って、今一度氷川らを振り返った。
「焔、あまりボウズ共を甘やかしてくれるなよ?」
ニヤッと悪戯そうに微笑む様子が本当に様になっている。ここへの引っ越しといい、先日二人の口座に高額の報酬を振り込んだことといい、いろいろと世話を掛けてすまないという気持ちに代えての言葉なのだろう。
氷川はそんなところが僚一らしいと、改めて嬉しそうに笑うのだった。
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