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過去からの招待状
モバイルに送られてきた一通のメール。その差出人名を見るなり思わず眉根を寄せてしまった。
――高瀬芳則。
忘れもしないそれは、自身が現役ホストだった頃に枕営業として身体を重ねたことのある男だったからだ。
雪吹冰は、一瞬そのメールを開くことを躊躇った。
今更何の用があるというのだろう、どう想像しても、いい方向性のことであるはずがないと確信があった。
当時、冰は源氏名を『波濤』として新宿歌舞伎町にあるxuanwu《シェンウー》というホストクラブで働いていた。不動のナンバーワンホストとして君臨してきたが、前経営者の粟津帝斗から後継を望まれたことをきっかけに、今は現役を引退し、代表としてこの店を経営する側の立場となっている。
メールを送ってきた高瀬という男は、当時の数ある顧客の中でも太客といわれる上得意であった。ホストクラブに通うにしては珍しい男性客ではあるが、そんな彼と店がハネた後のアフターと称して、幾度となく深い関係を結んだのは事実だ。
だが、冰がこうした枕営業をしていたのは決して営業成績の為ではなく、彼にはそうせざるを得ない苦渋の理由があったからだった。
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