見られてしまった

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見られてしまった

「なっ……なっ……」  最もバレてはいけない危険人物に決定的瞬間を見られてしまい、千佳子は言葉を喉に詰まらせた。  よりによって、自分の正体に気付いているかもしれない相手にあんな姿を見られてしまうなんて……これはもう、いくら頭の良い私といえど、言い訳できる自信がない。  口をパクパクとしたまま、掴まれていた腕を振りほどいて後ずさりしようとすると、一歩動かした右足がピシャリと音を立てる。 見ると、足元には床いっぱいに広がる液体。 それを視線でたどっていけば、彼の後ろ、ちょうど窓から差し込む陽光が当たった場所で、虹色の魚たちがピョンピョンと跳ねていた。 「また派手にやらかしたな……」  ぼそりと呟かれた彼の言葉に、私は思わずゴクリと喉を動かす。もちろん、お腹が減っているからではない。  いったいどんな恐ろしい仕打ちを受けるのかと身構えていると、「あっ」と声を漏らした相手は、またも自分の右腕を掴んできた。  ヤバい!  頭の中で咄嗟に警告音が鳴り、私は「離して!」と彼の手を振り払おうとした。 きっとこのまま職員室と呼ばれる部屋に連れて行かれて、教師たちに私の本当の姿をバラすつもりだ。  それは絶対に避けなければいけないと、千佳子が力いっぱい右腕を引っ張った時、尚人が慌てた口調で口を開いた。 「おい、ちょっと待てって。怪我してるぞ」 「え?」  その言葉に驚いた自分は、彼に掴まれている右腕を見た。すると、いつの間に切ってしまったのか、たしかに白い素肌からは人間の血が流れ出ているではないか。  動揺していたのでまったく気づかなかったが、気付いてしまうとこれはこれで痛い。でも……
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