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カマをかけられて、すぐに落ちた環は、それでも口止めのために一回寝ておけばよいだろうと高を括っていた。だが、雄樹は攻めの手を緩めることはなかった。あの手この手で脅され抱かれ続けた。そのうち開き直った環は時々彼を呼び出すようになり、身体だけの関係を続けている。ホテルの部屋の番号と時間を指定するだけ。抱かれた後はすぐに部屋に帰り、翌日はまた素知らぬ顔で仕事をする。それまではゆきずりの関係が多かったが、雄樹とだけに決めるとそれはそれで楽だった。雄樹は環に男が複数いる、と勘違いしているらしいが、それについてもそのままにしておいた。面倒なことはごめんだ。
雄樹はそんなことを考えてぼんやりしている環に、邪気のない笑顔を向けた。
「じゃ、ヤリまくろうぜ!久しぶりじゃん。環さんが呼んでくれるのって」
本当に言葉が悪い。これで弁護士なのかと、時々不思議になる。だが環がふたつの顔を持っているように、雄樹にそれがあってもおかしくはない。もう、驚かない。うっかり「明日は休み」と口を滑らせた自分が悪かったのだ。環はため息をついた。
「無理。身体が持たない」
「大丈夫。無理はさせないから」
「無理。帰る」
「帰してやってもいいけど…」
雄樹はにやりと笑う。勘に障る。
「ベッドから降りられたら、な?」
「……わかったよ」
環は観念し、目を閉じる。負けはもう決まっている。体格も違うし、確か柔道をやっていた、と聞いたことがある。明日の規則正しい自身の生活はキャンセルだな、と環は内心、舌打ちした。
「内心舌打ちをしている環ちゃん。いただきまーす」
不意に唇が降りてきた。歯を固く閉じていると雄樹の指に鼻をつままれた。息ができない。苦しい。
「んっ……う」
苦しくて口を大きく開けてしまう。そこから雄樹の温かい舌が忍びこんできて絡んだ後、唇で環の舌を思う存分吸った。頭にきた環は肩にあてた手に力を入れて押しのけようとしたが、びくともしなかった。
「往生際が悪いと……」
雄樹は近くに放ってあったタオルを取ると、嫌がる環の両手首をまとめてひとつに縛った。
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