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「……やめろよ!」
「こういうの、やりたかったんだよね。環さん、いろいろうるさいんだもん」
「跡がついたらどうするんだ!」
「どうせ一年中長いシャツ着てるんでしょ。どうとでも隠せるでしょ。『禁欲的で秩序を愛する藤川環』サン」
どうしてこう勘に障る物言いをするのだろう。秘書としての完璧を求める自分。ストレス発散にセックスしたいというどうしようもない自分。この男が知っているのはそれくらいだろう。環のすべてを知っているわけでもないのに時々確信を付くのが気に入らない。
「いや……」
「あんたの身体全部に跡をつけたい」
「お願い、だから……」
「聞かない」
縛られた手首の指先をしゃぶられ、肘、脇、胸へと……。針の先をほんの少しあてるような痛みが断続的に続く。嫌だと言っても聞き入れてもらえないことはわかっていても、環は嫌だ、と繰り返す。その唇が背筋を這う頃には、環は意識が飛びそうになっていた。
「……おい、音を上げるにはまだ早いぞ」
「……っあ!」
腰を一気に持ち上げられ、固いものが押し付けられる。シーツをつかむこともできず、イラついた環はタオルで縛られた両手首をベッドに激しくバウンドさせた。
「暴れるなよ! いい気分にさせてやるから」
押し入ってくる。心臓が弾けそうだ。環はただ、呼吸するのに必死だった。全身が熱い。
「い……やだ」
「あんたの嫌は、イイ、に聞こえてきた」
調子のいいことを言っている。腰を強く押し付けられるたびに、意識が遠くなりそうだというのに。
「環……環……」
うわごとのように呼ばれる自分の名前。こんなふうに呼ぶのは、今はこの男だけになった……。そしてそれを許すのも。そんなことを思いながら、環は雄樹の動きに必死に着いていった。
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