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環は雄樹に背を向けた。かなり体力を消耗した。少し眠りたい。すると首の下に腕が伸ばされて、環はあっという間に雄樹の身体に抱き込まれた。何の目的もなく全裸のまま密着する。環は行き過ぎる雄樹の態度に辟易し、声を荒げた。
「調子に乗るなよ!」
「調子に乗るでしょ。いつも終わったらすぐに帰っちゃうし。こんなに弱ってる環さん見るの初めてだし」
「…………」
確かに疲れている。疲れてはいるが……。弱っているわけではない。けれど。今まで雄樹を呼び出した時、自分はなにを考えていた? 息抜きにセックスしたい。それだけ? 環は爪を噛んだ。
思考が鈍っている。確かに仕事しすぎだったかもな、と環は思う。だが、今は唯一の趣味と言ってもいい仕事が波に乗っている。乗らない手はない。少しくらい身体を酷使したからといって、どうということはなかった。
「爪を噛まない」
「うるさい」
「あんた、まさか黒沢さんと寝たりしてないだろうな」
「バカ。上司と寝る趣味はない。それに黒沢さんは恋愛中だって言ってるだろう?」
「あの副社長が恋愛中なのに、秘書のあんたが恋愛してみようという気には?」
「たとえ恋愛するとしてもおまえはない」
「なんでだよ」
「年下に興味はない」
雄樹はにやりと笑うと、環の唇を指でなぞった。
「あんたを満足させてやれるのは若い男のほうがいい。あんたはさぁ」
環の唇をゆっくりと舌でなぞる。耳元でそっと囁かれる。
「淫乱だからさ」
「その淫乱に呼び出されてホイホイやってきちゃうおまえはなんだよ」
環は気分を害して起き上がろうとしたが、雄樹の両手が肩をしっかり抱いていて、起き上がるのは無理そうだった。どちらにしろ今日はもう帰れない。デジタル時計は午前二時になろうとしている。身体もつらい。しかし、この体制は嫌だった。
「……離して」
「嫌」
「眠いんだよ」
「寝ればいいじゃん」
こんなに厚い胸板だとは思わなかった。乗せた頬が少し熱くなる。今までこんなに長い時間、雄樹といたことがなかった。ただのセックスフレンド。それだけなのに。髪を撫でられて、環はなんだか居心地の悪さに口も悪くなった。
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