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「ただのセフレの一人なのにさ。おまえもそうやって楽しんでるんだろ?」
プライドを保つためのつまらない嘘。返事がない。眠ったのか。
「別の人のほうがよかったかな……」
「っていうかさ」
雄樹のはっきりとした声が頭上から降ってきた。
「俺、あんたと遊んでるつもりはないから。他のヤツとはこんなことしない」
「……え」
「そうやってセフレを連発するとさ」
肩を抱く手に力が入る。環は痛みで顔をしかめた。
「……痛い……」
「もっと痛いことするよ? ヤリ殺しちゃうかも」
「……雄樹」
「ホント、セフレとか……俺以外は清算して?」
髪に口づけられる。優しく指がくぐってくる。めずらしく雄樹が熱心に口説いてくる。そんなものを信じられるほど、自分は甘くない。愛とか恋とか。そんな形のないものに、なぜ人は夢中になるのだろう。
形? 環はいつもは考えないようなことを考えていた。それは、保証が欲しいということ? 違う。自分はそこまで弱くない。雄樹が自分を弱くさせる。他の人間には決して許さない部分まで、少しずつ許してしまう。浸食されて、自分は弱くなっている。これが恋? ならば余計に質が悪い。弱くなる自分など、自分ではない。
「どうして?」
「あんたが他のヤツに抱かれてるのなんて、マジで無理。最初から押したら、あんたが引くと思って黙ってたけど……」
「いや、十分押されたけど。と、いうか、あれは脅しだったよね」
口づけが深くなる。髪を触れさせるのも、思えば雄樹だけ。少し混乱して環は黙り込んだ。
「ホントに……あんたが好きなんだ。だから、俺だけのものになって」
「男相手に、なに言ってんだよ」
「あんたに女は無理だ。手に余る。男ならあんたの身体も心も満足させてやれる」
「どういう……」
「俺なら、あんたを甘やかしてやれる」
「他の男でもそれはしてくれるよ」
「……わからない人だな」
「なにが」
「なんで最近、俺としか逢わないのか、とか。……ああ、もうやめた。あんたは仕事では切れるが、ことこういうことに関しては疎いからな。それを引っ張るのも俺の役目か」
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