砂とラムネ

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「横井さんって、相変わらず抜けてるよね」 「ひど……」  言いかけた彼女の柔らかそうな頬が、ほんの少しだけ赤色に染まった。わっと大きな声が上がり、小さな筒から火花が勢いよく噴き出す音がする。さきほどの女の子たちが、砂浜で花火を始めたらしかった。 「うわぁ……なつかしい……」  にぎやかに散らかる火の粉を見つめながら、彼女は目を細めている。その横顔は、切なげな光を宿していた。  懐かしいとは、どの思い出に対して述べた言葉なのだろう。胸の奥から沸き上がってきた何かが、身体の中でぱちぱちと弾けて喉を詰まらせる。  今頃後悔するくらいなら、毎日制服を着ていられたあのときに、きちんと向き合っておくべきだったのに。 「馬鹿だなぁ」  彼女の口許に手を添え、指先で砂を拭い落とした。帯状に伸びた薄暗い海岸線、ねずみ色の砂浜に、彼女の白い肌が溶け込んでいく。
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