砂とラムネ

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 俺と彼女は、平たく言うと高校の同級生だった。  もう少し詳しく説明すれば、当時それなりに好きだったとか、でも割と仲のいい友達の女だったとか、そいつの横で笑う彼女に対して得も言われぬ感情を持ったとか、冗談めかして告白したら微妙な雰囲気になったとか、それなりに色々あったとも言える。  でもそれだけ。彼女にとっては取るに足らぬ出来事だっただろうし、俺自身も、友達から彼女を奪うなんて情熱もなく、淡い青春の一頁として、記憶の奥にあるアルバムに閉じられたまま今の今まで忘れていた。 「……あれ、横井さんだ。久しぶり」  ヨコイさんと呼んでから、もしかしたら苗字が変わっているかも、とふと思った。あの頃から十年以上の時が経っていて、お互いに三十という節目を跨いでいる。  でも彼女はなにも否定せず、あはっと可愛らしく、リズミカルに笑った。 「変わってないね、川嶋くん」
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