砂とラムネ

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 瓶に入った泡ばかりのラムネを、ちょうどこの辺りで、並んで煽った。  蒸し暑い夏の真っ只中。部活の帰り。夕日が海に溶け込む少し前。  制服の白い袖を捲った俺と、紺色のプリーツスカートを抱え込むようにして座っている彼女。ふたりとも、学生らしく日に焼けていた。「俺も好きだったのに、なんであいつなの?」なんてことを、例に漏れず冗談ぽく言って、横井さんに微妙な顔をさせたっけ。  奪うなんて度胸、なかったのに。  薄い雲がかかった空に、星は見えなかった。海からやってくる生ぬるい風が、汗ばむ肌を撫でていく。 「去年の同窓会って、行った?」 「いや、行ってない。横井さんは?」 「私も、行けなかったんだ」  お互いに、お互いのことを深く尋ねるのを避けていたと思う。  今にも落ちそうなそれの、最後の一口を掬うようにして食べ、そのままハイボールの缶を引っ張り出した。
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