嫌われ者の願いは一つ

1/30
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 とある老人が街を訪ねてきた旅人に語った。  この街には魔女が住んでいる。恐ろしい存在だ。変装したり、物を壊したり……人に危害を加えようとする。だから、絶対に近づくな。因縁があってこの街の守り神である女神様を倒そうとし、支配者の座を奪おうとしているんだ。この平和な街を脅かそうとしている。  賑やかな市場通り。お昼時を迎え買い物する人たちであふれている。子どもが通りで遊んでいる。奥さんたちはそんな子どもたちをチラチラと気にしながら買い物客と楽しく話していた。太陽の光と同じようにその様子はキラキラと光り、笑顔の花が咲いていた。  そこに深くフードを被った女の人が一人。急ぎ足で歩き、人目につかないようにわざと壁際を歩いている。果物や野菜のたくさん並ぶ店の前に立ち止まり、そこでようやく顔を上げた。  これと、これと……あとこれも必要  心の中でそう言いながら、すばやく手に取り、とっさに店員に渡す。 「いらっしゃい、五〇〇エンね」  女の人は用意していた金額ぴったりの小銭を店員に渡し、袋に入った果物を手に取るとすぐに立ち去った。 「おい、お前、ちょっとまて!」  びくっと背中を震わせたのは女の人だった。思わず足が止まった。  呼び止められた? 私のこと?  今までの流れを頭のなかでおさらいしてみる。ちゃんとお金払ったはずだ。 「おい、こら! どろぼう!」  そのとき、女の人の横を激しい風が横切った。なんのことかと前を見てみると、遠くの方に一人の男性が全速力で走り去ったではないか。しかもその手にはカバンが握られている。店員は店を急いで出ると、これまた全速力で追いかけに行った。  街が一気に静かになった。そして近くの者同士で「なんのこと?」「なにかあったのかしら」ヒソヒソ声が聞こえる。不安が街を覆いつくし始める。 「どろぼうだって言ってたよな?」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!