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ケンジが、部屋で待ってろって言うから来たものの……
やっぱり……あまり気が進まない。
嫌な予感って、大体当たる。
そう、ふと思いあたった瞬間。
やべ、フラグ立てちった。
とも思う。
アパートの鍵開けてドア開く。
臭っ!
男子特有の汗臭さと、十分換気ができてない、生乾きっぽいカビの匂い。
あーもう。すぐこれだ!
先週来たときに掃除したばかりなのに、どうしてこうもすぐ荒れる。
こんな部屋で待ってるなんてムリポ!
はい、フラグ回収ーー
萎える。
ガスマスクか、酸素ボンベ欲しいとこだけど、そんなの持ち合わせて来てないので、仕方なく息止める。
2.50秒で部屋横断し、新記録。
ベランダの窓ソッコーで開け放って、一旦ベランダの外まで退却。
右手の袖口引っ張って、袖口の空洞、吸入器代わりに口に当ててはぁはぁする。
私はあなたのお母さんじゃねぇっつーの!
とりま換気扇。
それと消臭スプレー。
部屋の中にあるはず。
どこだ?ターゲット。
放置された消臭スプレー、見つけるのにそれほど時間はかかんない。TVボードの隅っこに申し訳なさそに鎮座してる。
だって私が使ったきり、その場所から微動だにしてなさそうなんだもの。
はぁ、と大きくため息ついて、
覚悟を決めて、いざ。
消臭スプレー乱射しながら、キッチンの換気扇つけて、すかさず風呂場と洗濯機の中チェックする。
浴室は、言いつけ守ってカビ臭くならなないように水切ってある。
よしよし、えらいぞ。
問題は……洗濯物。
洗濯機の中!
濡れたタオルやら、着替えた服やらがもう!
かまわず放り込んである!
悪臭の原因菌がお祭り騒ぎ。
(しね!駆逐してやる!この世から、一匹残らず!)
洗剤たっぷりぶちまけて、
バコン!
ピッピッピ。
キッチンはいつも自炊してないからOK。
わりとキレイ。
許す。
最後に残すはリビング!
マンガ!DVD!ゲーム!ひと口残しのペットボトル!読むんだか捨てるんだかわかんないチラシ、DM、請求書!コンビニの弁当袋結んで、隅寄せといてあるヤツ!ゴミ箱のゴミの山!そこからあふれた使用済みティッシュ!
ざけんな!
なんかムカムカしてきた。
顔赤くしてふがふが言いながらも、体はテキパキ動いてしまう。
昔は私もこんな感じで、だらしなかったから分からないでもない。
歳とると、仕事スキル上がるの比例して、そのスキル家に持ち帰ってる自分がちょっとおばさんチックで、嫌い。
生鮮スーパー各支店へSVする。
食品管理スーパーバイザーなんて仕事してるから、他人から見たら潔癖性?って思われる。
ただでさえ、若い女上司ってだけでも、パートさんから疎まれるし……
もういい加減慣れたけど!
人の粗探ししてるみたいで好きじゃなかった。
けど、私のことをちゃんと見てくれてる人がいた……
『かっこいい』
って言ってくれたケンジ。
大学時代のケンジが、バイトしてたスーパー。
たまたま私が、出向してた。
バイトのケンジ達とも交流があったのだけれど、
まさか…
バックヤードで声かけられて、
『憧れて御社に就職希望出しました!』
なんて…
めっちゃキラキラした目で言ってくる。
真っ直ぐ私見てくるもんだから、むちゃくちゃ照れた。
ありがとうって答えて、
しばらくした後、いろいろ…ごちょごちょっと、
そんな、こんなあって、
…
…
…
向こうが、かなりグイグイ食いついてくるもんだから、つい……
気づいたら私、若いツバメ食ってた。
ケンジを『男』にしたのはこの私。
フッ…………恥ず。
まあ、端折り過ぎたが、事実は事実。
いろいろあって今がある。
なんだかんだともう、2年。
周りには内緒でケンジと付き合ってる。
あいつ、どこほっつき歩いてんだか!
残業か?
最近ウチの会社は、ノー残業デー指定してるから、今日は定時上がりのはずなのに……
なんかあったか?
それにしても…
引越しする時の為に、ある程度『断舎離』するって、
言ってたんわ何処ぞのケンジさんでしたっけ?
実は再来月あたり、一緒に住もうか。とかいう密かな計画を立てていたりする。
私と一緒に暮らすんなら、引越しぐらいしっかり段取り良くしてもらわないと、先々思いやられるなー。
また調教のしがいができたな。
あー。これ。マンガ。請求書。どこ仕舞お。
ん?
なんだろ?この三つ折りの便せん。
んー。
一瞬悩んだ。
あんまり、読まれたくないヤツかもしれないし…………うーん……
けど、読んでしまった。
『ケンジへ。
元気か?最近調子はどう?
ちゃんと食べれてる?
むしろ太った?
甘いもの好きだもんな……
風邪ひくと、こじらせて治りが悪いから、気を付けたほうがいいぞ。まあ、余計なお世話か。
こじらせついでに、厨二病もこじらせて末期なんじゃないか?
お前、リアルより2次元の方が大好きだもんな?
『俺が禿げても推しは裏切らない!』
お前の口癖……
あれ恥ずいぞ。
まあ、父親があれだから……仕方ないな。
自然の摂理には逆らえない。遺伝だ、あきらめな!
人生何事もあきらめが肝心ってよくいうしな。
そうそう、田中 美佳。
その後どうなった?』
(は?!)
最期の二行に、ドキリッ!とさせられたのは、あまりにも不意打ちすぎたから。
続きの便せんがない……
慌ててあちこち探してみた。
もう、一枚二枚手紙の続きがあってもいいものなのに……
無い!
なに、これ……
誰よこんな手紙ケンジに書いたの!
意味わかんない……
いや、わかってる。文面はわかる。
けど……
え?田中 美佳?
誰ぞ?
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