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中間報告
その週の金曜日の夜。僕は香織に電話をかけた。
「どうだった?美鈴が調べてきた感じ」
「どうもこうもないわよ」
香織の困り果てた顔が声から想像できた。
「稲本さんの歌詞のほとんどはどっかの本のパクリだなんて言うのよ」
香織はそう吐き出す。話によると、香織は過去のB'xのアルバム10作以上の歌詞カードを見せてきた上、
「『THERE』この歌詞は西野慶太の『哲学の道』でしょ?そして『Hopeful Song』のサビはホルマンホッセの『車両の傍』のパクリ。しまいには『Merry Go Round』なんて、万葉集の和歌からまんま歌詞にパクってるんだって!ほら、やっぱり松葉様で持ってるでしょ?B'xは!」
と、鼻息を荒くしているというのだ。
「そうか。実は僕の方もなんだよね……」
僕はそう言うと、航平から聞いたことの顛末を香織へと報告する。
「ちょっと、これを聞いてみてくれないか?」
今日の昼休み、僕は航平からイヤホンを渡された。爽やかなお別れの歌だ。最後のサビが終わると、壮大なメロディーに乗せたコーラスが耳に刻まれていく。
「最後のコーラス、いいな」
僕がそう言うと、航平は首を横に振った。
「そうか。良いと思うか。ならこれを聴いてみてくれ」
航平がそう言うと、聞き覚えのあるレトロな洋楽が流れ始めた。優しく語りかけるようなメロディーが終わったとき、
「あ!これは!」
僕は思わず声を上げた。それを見ながら航平は首を縦に振る。僕の耳にはさっき聴いたばかりのコーラスと瓜二つなメロディーラインが頭を流れてきたからだ。
「この『Farewell Tune』のラスト、そっくりだろ?このKUWAGATAの『Hey,Jody』に!パクリなんだよ。松葉さんの曲はさ」
そのしたり顔は誰に向けてのものなのだろうか?と思いながら、僕は航平の顔を見つめた。航平はそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、さらにまくし立てる。
「他にも『BURNIN'』はイントロがシモン・オーリバルの『秋の散歩道』のパクリだし、『Don't Leave Me Alone』なんて、Aメロの入りがスミスエアーの曲にそっくりなんだぜ?稲本さんの歌詞がなかったらB'xはただのパクリバンドだよ」
航平がそう言い放ったとき、5時間目を知らせるチャイムが鳴った。
「ってことで、この方向で発表するからな」
得意気に自分の席へと航平を前に、僕は何も言い返す言葉を持たなかった。
「……というわけなんだよねぇ」
僕がそうぼやくと、電話越しにクスクスと笑う香織の声が聞こえてきた。
「何がおかしい?」
「いや、似た者同士だなぁと思ってさ」
香織はそんな呑気なことを言っているが、発表まではあと1週間とちょっとしかないんだ。遊んでいる場合ではない。
「ねぇ、実は私も少しB'xのことを調べてみたの。そしたら、すごく素敵な曲を見つけたのよね。もしかしたらこの曲、ヒントになるんじゃないかな?」
「へぇ。なんていう曲?」
「『A guitar boy's dream』って曲よ。デビューしたての頃の曲みたい。土日で一度聴いてみて」
「わかった。聴いてみるよ」
僕はそう告げると、香織との通話を終えた。
A guitar boy's dream……あるギター少年の夢か……どんな曲なんだろう?
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