SFはほんとに衰退したのか?

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SFはほんとに衰退したのか?

日本のSFが衰退したといわれだしたのは90年代前後だろうか? 60~70年代の日本SFは数々の傑作を生み出してきた。 小松左京の日本沈没、筒井康隆の時をかける少女、眉村卓の狙われた学園、光瀬龍の百億の昼と千億の夜、星新一のボッコちゃん、平井和正のウルフガイ、山田正紀の神狩り、夢枕獏のキマイラ、菊地秀行の魔界都市新宿、栗本薫のグインサーガ‥‥ 思いつく限りの作品を取り上げたのだが、ここ近年もアニメや映画化されるものもありSFが一つのジャンルとして確立していた感がある。 そんな日本のSFがなぜこうも衰退してしまったのか? 80年代後半から日本のSFはニューウェイブといわれた作品がいくつか書かれたが、どうもこの時期がSFファンからそっぽをむかれた。 それまでのSFはミステリー、ホラー、冒険ものといった他のジャンルを積極的に取り入れたのだが、この貪欲な志向が 活字としてのSFファンが減少しだした。 ちょうどこの時期ミステリー界では新本格ムーブメントが起こり、社会派ミステリーという狭義のミステリーから広義のミステリーへと変化した。 東野圭吾の時生、パラレルラブストーリー、秘密はかっての日本SFの延長線上とはいえないだろうか。 時生は未来の息子が過去に戻り父親の青春時代に遭遇する。パラレルラブストーリーは二組のカップルの別次元、そして秘密は娘の身体に乗り移った妻の精神と葛藤する。 同じように宮部みゆきの蒲生邸事件、龍は眠る、クロスファイヤーも同じだ。 蒲生邸は二二六事件の前夜にタイムスリップした時間もの、クロスファイヤーは超能力をもって法で裁かれない悪を制する いっぽうホラーも角川ホラー大賞を出発点とするモダンホラーがでてきた。 瀬名秀明のパラサイトイブは知能を得たミトコンドリアが人類に襲いかかる、まるで往年のSFだ。 そして貞子という日本のモダンホラー最大のモンスターを生み出したリング、この作品はたしかにホラーであるが、続くらせん、ループはなぜか欧米のサイバーパンク以後のSFの影響を感じさせる。 SFという名前ではほんとに本が売れなくなった。活字としてのSFは欧米では今もそれなりの スタンスをもっているのに日本では映像メディアだけがSFの看板を守っている。 しかし上記に書いたとおり実質はSFとしての作品が脚光を浴びているのも事実である。 このことはミステリーもホラーも活字としてのSFを飲み込んでしまったといえるのではないだろうか? かってSFは他のジャンルの要素を取り入れてSFミステリーやSFホラーを作り出した。 昔は吸収していたが、今は拡散した状態になっていると思うのだ。 SFは衰退したという声が多いが決してそんなことはない、そう信じてやまないのである。
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