3龍さんと文さん

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3龍さんと文さん

 今から16年前、26歳の時、龍さんがまだ2浪して大阪大学の学生だったころ、馴染みの喫茶店で働いていた21歳の文さんと結婚した。  龍さんは開業医の父親、善一郎の期待とは裏腹に、子供の頃に読んだ「銀河の無責任伝説」という冴えない無責任な男が、やがて銀河を2分する宇宙戦争の提督となり、劣勢をひっくり返す痛快SFライトノベルにはまってしまって、親の期待を裏切り医学部ではなく文学部へ入った。  文学部に入った龍さんは、その時、講師を務めてる傍ら映画の脚本家もしていた「銀河の無籍任伝説」作者、田中平に運良く出会いその門を叩いた。  弟子入りした龍さんは、師匠の田中平の家へ通っては箱書き(プロット)のバラシの宿題を出されては、大学の書庫へ入り、歌舞伎の戯作者、近松門左衛門や4代目鶴屋南北、河竹黙阿弥やらの戯作に始まり、坪内逍遥やら岸田國士やらの日本戯曲全集などの日本の古今東西の芝居を勉強した。  龍さんは、元来のんびり屋で、まじめに師匠の宿題をこなしていたら、作家の実力は蓄えられてゆくのだが、ボンボン育ちで欲がないから、いつまでたっても自分の作品を描かずに、研究だけを極めてゆく描かず見る目ばかり肥えてゆく”描かない作家”になっていた。  
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