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登校してしばらく自分の席で待っていたら、坂上くんが「おはよう」なんて言って教室に入ってきた。後ろから犬のように伊達くんが「ゆうまゆうま」と鳴きながらじゃれてくっついてくる。
坂上くんはじっとあたしの方を、見つめた。
坂上くんのまぶたがやっぱり少し腫れていて、いつもよりちょっと不細工に見えた。
「僕はどうだった?」
坂上くんがまっすぐにあたしのところへ歩いてきて、どうとでも聞こえるようなことを言う。あたしはなんと答えたもんかと考えて、少し気取って「よかったわよ」なんて、答えた。
伊達くんが怪訝な顔をしてあたしたちのやりとりを聞いているけど、坂上くんは特に弁解とか説明はしなかった。
ついでだからあたしはあのことを訊いてみた。わざと。伊達くんの反応が知りたくて。
「あのCD、すごいわね」
「ああ、そうでしょう? 興味、ある? あるなら僕、貸してもいいけど」
驚いたことに、坂上くんは実に生き生きとそう言った。
「なんか気づいたらあんなに増えててさ。僕、ああいうのすごく好きみたいで。忘れもしない、小学校のときにはじめてショパンの幻想即興曲聴いて、雷に打たれたような気がしたんだ、僕!」
伊達くんが「ああまたか」って顔をして、あくびをした。
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