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「あれほんとすごいんだ、よくあんなに速く弾けるよね。指が全部意思を持っているってああいうことなんだよ。あんな風に激しくドラマチックに叩きつけられちゃうと僕もうだめなんだ、胸がぎゅうってなって頭がぼんやりしてきちゃうんだよ!」
あたしは笑った。ケラケラと声を上げて、笑った。こんなにしっかり笑ったのって久しぶりだった。
だっておかしいんだもん、この子。
朝から異性のはずのあたしに嬉しそうに、性の目覚めの話なんかしてんだもん。
あたしにははっきりとわかった。この子はまだ、自分が特別な変態だってことに気がついてさえいない。友達のはずの伊達くんは、この子がどんな風にクラシックを聴いているかなんて想像ひとつできていやしない。
できるわけないよね。
笑いすぎて息が苦しくなってきたあたしを「え、なにこのひと」みたいな顔して見ているけど、いつかわかるといい。そして思い出して穴にでも入っちゃえばいいのよ。おかしいのは圧倒的に、坂上くんの方なんだから。
「ねえそんなにおかしい?」
おかしいけど、これたぶん、説明しても仕方がない気がする。
きっとこの子にはまだわからないことだから。
「僕、おかしいのはどちらかっていうとそっちだと思うんだけど」
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