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「へえ」
とあたしは唇をゆがめた。何人も交換してきたあたしがこんな変態いないって太鼓判押してるのに、そのあんたが一体何を言うのよ。
坂上くんはなんだか言いにくそうにあたしの顔を見つめて、それから思い切ったように言葉を発した。
「だって僕、昨日一日、とうとう誰からも呼ばれなかったんだ。あれってやっぱり、変だと思うよ」
あたしは「ふうん」と言ったけど、もうひとつもうまく笑えなかった。さっきまでのおかしくて楽しい気持ちが全部ちゃぶ台に叩きつけられた一升瓶みたいに割れて砕けて粉々になった。
あんたなんかに何がわかるの。
これだからぼんぼんなんて嫌いなんだ。
変態のくせに。
バカみたいに恵まれたところで、ぼんやり生きてるだけのくせに。クラシックなんか聴きながら。
あたしは昨日一日、シャワーみたいに浴びせかけられた「ゆうま」を思い出してやっぱり腹が立ってきた。
みんなみんな口々に、ゆうまゆうまゆうまって。
ああいうのを世間では、愛情っていうのかな、ねえ。
あんまり憎たらしいもんだから、あたしは囁くように言ってやった。
「あたし昨日、妹とキスしたよ。すっごいディープなやつ」
「え」
と坂上くんが一瞬ぱっと目を開いて、伊達くんはもうさっきから意味がわからずぼんやりあたしたちの顔を見ていた。伊達くんのわりと整った唇がぱかんとアサリみたいに開いている。
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