名前泥棒

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「嘘だな、それは」  坂上くんはやっぱり頭がよかった。 「そんなことして僕が無事でいられるわけがないもの。僕はなんとなく、昨日何があったか分かるね」 「そう? じゃあそう思っていれば」  鼻で笑おうとして、坂上くんの顔でしたときほどはうまくいかなかったあたしに、不意に坂上くんが言った。 「あのさ、菜乃……ちゃん」  今度はあたしと、伊達くんも目を見開いた。 「僕はじめてあんな風にみんなから、お前とかこれとかクズとか言われた。どうして菜乃ちゃんをちゃんと呼んでくれるひとがいないの」  あたしの唇が勝手にわなないた。  ああこの子、とんでもなく頭がいいんだ。  隣で咎めるように伊達くんが「ちょっと、ゆうま!」と叫んだ。  伊達くんは、この子が女の子を名前で呼ぶのも嫌なのか。  育ちがよくてこんな風に、女の子を気軽に呼び捨てにもできないようなぎこちない呼び方でも。 「いいだろ、別に。雅人も呼べばいいよ。自分たちがつけたくせに子どものなまえ呼ばない親なんて、間違ってると僕は思う。だからあのひとたちが呼ばないんなら、僕が呼ぶよ。……まあもし、菜乃……ちゃんがイヤじゃなかったら、だけど」
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