名前泥棒

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 今月も、ごほうびの日がやってきた。  坂上くんを選んだのは本当にたまたまだった。  先月の子が家でこっそりつけてた日記にやたら頻繁に出てきてたのが坂上くんの名前で、あたしは坂上くんのことは地味で大人しい子だなとしか思ってなかったから、ちょっとだけ吹き出してしまったんだった。  坂上くんになんてそんなに興味もないんだけど、もしかしてこういう地味な子がひとに言えないとんでもないことをしていたりしたら、面白いなあって、思って。  あたしはニヤニヤしたくなる唇をそっと引き結んで、真面目に早くから登校してきたかわいそうな坂上くんに声をかける。 「おはよう、坂上くん」  坂上くんは目だけ上げて「ああ」かなんか答えた。  わかるよ、坂上くん。きみ、今、なんだこの女、僕に何か用か、なんて思っているんでしょう。宿題写さしてやらないよ、とか、そういうことを考えている、目。  バカだねえ。 「坂上くんって、なまえ、優馬くんっていうんでしょ」 「……そうだけど」  と坂上くんは顔を上げた。そうだよね、知ってる。さっきちゃんと出席簿で調べたから絶対間違ってない。
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