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「痛かった? 本当ごめん」
「ちょっといいか、散宙くん」
俺の下でハルトが体を回転させ、仰向けになる。そのまま俺の右腕を取り、手首の上辺りから手の甲、手のひらを順々に揉み始めた。
「血行が良くなると冬でも冷えなくなるぞ。強過ぎず弱過ぎず、適度に緩めたり、きつくしたりな。凝りが酷い箇所は、無理に揉みほぐそうとしないでまずは温めること」
剥き出しの貧相な腕をハルトにマッサージされているうち、本当に少しずつ体が温まってくるのを感じた。気持ち良い。腕一本でここまで温かくなれるなんて。
「あったかい。すごい気持ち良い」
「そうか。それじゃ次、そっちの腕も」
言われるまま左腕を差し出し、同じように揉んでもらう。力強いのにどこか柔らかく繊細な手付き……このまま眠ってしまいそうだ。気付けば俺は、ハルトの腹の上にべったりと座り込んでいた。
「ウチの店だとな、60分のマッサージで一万四千円の料金が発生するんだ」
「えっ、一時間で一万四千……!」
瞬時に目が覚めた。時給八百円から九百円のアルバイトしかしたことのない俺にとって、その金額は信じられない数字だった。二日間ファミレスでフル出勤して得た給料が、たった一時間で消えると考えると恐ろしい。ぼったくりも良いところだ。
「お、お客さん来るのか。そんなので……」
「ああ、来る。週末なんかは大忙しだ」
信じられない。皆、そんなに肩凝りや腰痛に悩んでいるのだろうか。
「今日の詫びも兼ねて、特別。無料でこの俺が直々に施術してやるよ」
「本当?」
何しろ一万四千円だ。無料でしてくれると言うなら、是非体験してみたい。
ハルトに言われてベッドにうつ伏せ、交差させた自分の腕に顎を乗せる。さっきまでの俺と同じようにハルトが俺の体を跨ぎ、首の付け根から背骨、肩甲骨、そして背中全体をゆっくりと圧し、力強く撫でてくれた。
「うあ、気持ちいい……。ハルト、上手い」
「当たり前だろ」
ハルトが低い声で笑い、更に俺の腰に置いた手へ力を込める。脇腹を揉まれているのにくすぐったくないのは、ハルトの手が温かいからだ。
「この先はやりにくいな。散宙、下脱がしていいか」
「え」
言うなり、ハルトが俺のジーンズをずり下ろした。二枚で千円のダサいボクサーパンツが──俺の尻が、ハルトの前で露わになる。
「ちょっと、急にっ……」
「気にするなよ、男同士なんだし。さっきも見たし」
素っ気なく言って、ハルトがマッサージの続きを始めた。脚の付け根から内股と太股の裏側をぎゅっと揉まれ、徐々に膝の方へ、それから一日歩いて疲れた脹脛へと移動する。気持ち良くて溜息が漏れ、俺は早くもジーンズを脱いだことを忘れて自身の腕に頬を押し付けた。
本当にプロの人に施術されているみたいだ。……いや、ハルトは本当のプロなのか。
「次は仰向け」
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