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「よし、始めるか」
俺はここにいていいのだろうか、玲遠に睨まれやしないだろうか。……迷っているうちに撮影が始まってしまった。
「じゃあベッドに座って、取り敢えず私服で一枚」
玲遠が柔らかそうなベッドに腰かけ、胡坐をかく。それからニッと歯を見せて愛らしい笑みを浮かべ、三脚に固定された一眼レフを構える武志さんを見上げた。信じられないほどの役者だ。さっきまでだらだらと文句を言ったり、むくれていたのに。
「いいね、今日も美人。じゃあいくよ」
シャッターが下ろされ、ストロボが光る。
「そのまま。もっかいいくよ」
玲遠の表情と、部屋の雰囲気。俺は目の前の光景に圧倒されてしまい、息を飲んでひたすらにそれらを見つめた。
「じゃあ次、服脱いで撮ろうか」
武志さんの言葉に、玲遠は少しの躊躇いもなくシャツを脱ぐ。続いて淡々とジーンズを下ろし、それら脱いだ物を何も言わず俺の方へと差し出した。預かっておけという意味らしい。
受け取った服をせっせと畳む俺の横で、武志さんが玲遠にあれこれ指示を出している。
「可愛いのは撮ったから、次はもう少し色っぽくいこう」
「えー、やだ」
「せっかくだから、色んな顔で撮った方がいいでしょ」
「そうだけどさぁ、知らない人がいるとやりにくいんだよね……」
柔らかそうな髪を揉みながら、玲遠がそっぽを向いて視線だけを俺に向ける。出て行けということなのだ。……確かに、昨日今日会ったばかりの男の前でそんな恥ずかしい姿を見せるのは嫌だろう。
「じゃ、じゃあ俺、向こうで勉強してますから」
部屋を出て行こうとした俺の腕が、横からグッと強く掴まれた。見上げた先にあったのは、ハルトの真剣な横顔だ。
「ハルト……」
「いいからここにいろ。これも勉強の一つだろうが」
有無を言わさぬハルトの低い声。その声だけで、体が固まってしまう。
「武志、代わる」
「あ、はい……」
武志さんと交代し、三脚から取り外したカメラを手に持ったハルトが、ベッドの上でムスッとしている玲遠に向かって言った。
「そんな可愛くない顔すんなよ。勿体ねえぞ」
「だってさぁ、何か腹立つ」
「何が」
「大河に聞いたけど、その子昨日ハルトの家に泊まったんだろ。ずるいし、何かヤラシイ」
その発言に冷や汗が噴き出たが、何とか表情は崩さずに済んだ。昨日の夜、ハルトにされたことが玲遠に知れたらどうなるんだろう。──考えたくない。
「ヤラシくねえよ」
「嘘つき」
「嘘じゃない。とにかくコッチ見ろ、コッチ。レンズの真ん中に目線」
ハルトが一眼レフのレンズ部分を指して言うも、こちらから見えるカメラの画面には不満そうな玲遠の顔しか映らない。
「怒るなって。そういう顔もそそるけど、やっぱお前はエロい顔してる時が一番綺麗なんだからよ」
「そんなの、……分かってるけど」
「イイとこ突かれて鳴いてる時のお前の顔、見てみてえな」
「………」
「舌出して誘えよ。脚も開け、大きくな」
「……ん」
座ったままの状態でもぞもぞと膝を開いた玲遠が、上目にハルトを見つめている。
「堪んねえな、もっと開いて内股のエロい筋見せてみろ。その顔すげえヤラシイ」
「う、ん……」
「ずらして見せろよ、玲遠。サイトには載せねえからさ。俺だけに特別」
「だ、だめだよそんな、……」
「じゃあ後で個人的に、な」
言いながらもハルトは次々とシャッターを切っている。その音も、ストロボの光も、俺と武志さんの存在も、もはや玲遠の目と耳には入っていないらしい。それは完全に「出来上がっている」顔だった。
思わず、生唾を飲み下す。
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