上京初仕事?

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「ん。ハル、ト……勃ってきちゃ、……して、ハルト、我慢できな、ぃ……」  玲遠が自分の肌に手を這わせ、とろけそうな目でハルトを見ている。俺は少し前屈みになって唇を噛み、だけど目が離せなくて、ひたすらに玲遠を見つめ続けた。 「我慢しろよ。上手に出来たら後でご褒美やるからな」 「ご、褒美……欲し、……」  こんな現場を見せられてもハルトの腕を見直すだけで、ちっとも俺の勉強にはならない。流石に武志さんは慣れているらしく、部屋の隅でじっと腕組みをしている。 「よし、上出来だ。お疲れ、玲遠」  カメラからメモリーカードを抜き取って、ハルトが部屋から出て行った。その後を、ジーンズを穿いた玲遠が慌てて追う。 「ハルト、ご褒美……俺にご褒美はっ?」 「ん。それじゃあ、これ」  コンビニの袋から取り出したチョコレートを手渡され、玲遠が沈黙する。 「チル。アーケードの入口に写真屋があるから、いま撮影したやつをプリントしてきてくれ」  不満そうに俯く玲遠を見もせず、ハルトが俺にメモリーカードを差し出して言った。 「普通のLサイズで、各一枚ずつな。領収書もらうの忘れるなよ」 「え、でもプリントくらい事務所でできるんじゃ……。立派なプリンターもあるし」 「ハルト俺のアレ見たいんだろ。見せるから今日部屋行っていい?」 「プロに任せた方が良い仕上がりになるだろ。そういう所でケチって売上げが減ったら元も子もないからな」 「さっき言ってた。後で個人的に、って」 「今見てやるよ、ほら出せ」 「ハルトの馬鹿! ハゲ! 短足!」 「もうちょっとマシな悪口言えって」  仕方なく俺はハルトからカードと千円札を受け取り、事務所を出た。  ビルの外は閑散としている。時刻は午後二時半。当然ながら殆どの店はシャッターが下りていて、あの怖い客引きや派手なドレスの女性もいない。昼間の風俗街ほど安全なものはないと、俺はゆったりした足取りで歩道を歩いた。  ハルトの言っていた写真屋は都ノ町駅のすぐ目の前にあった。アーケードの外は青空が広がり、およそ風俗とは無縁の人達がたくさん行き交っている。同じ街の中でもこれほど空気が違うものなのか。  明るい陽の光の元で働く人達と、陽が沈んでから活動を始める人達。間には見えない、だけどはっきりとした境界線があるかのようだった。  写真屋に入ってプリントの操作を聞くと、若い女子スタッフが丁寧にやり方を教えてくれた。  銀行のATMのような機械にカードを挿入し、読み込みボタンを押す。そこで俺はハッとして、そのスタッフに言った。 「あ、後は自分でできますから……」  目の前の大きな画面には恐らく、挿入したカードの中の画像が表示されるのだ。玲遠のあんな恰好を若い女の子に見られるなんて気まずすぎる。  ──俺がそういう趣味の男だと思われるじゃないか。  なるべく自分の体で画面を隠し、極力急いでプリントする画像を選んで行く。当然だが、全てさっきの玲遠の画像だ。物欲しそうにこちらを見つめながら自分の肌に手を這わせ、下着も本当にギリギリまで下げていて…… 「選び終わりました?」 「わっ」  さっきの店員さんが俺の隣に来て、ニコニコ笑っている。 「は、はい。大丈夫です」 「では完了のボタンを押して、次の画面でお客様のお名前を入力してください。その後、受付票がここから出てきますので」 「受付票? 写真がそのまま出てくるんじゃないんですか?」  明るい笑顔で店員さんが言った。 「はい。ここで注文してから店内のプリンターで印刷しますので、仕上がりまで十分くらいお時間頂きますが」  マジかよ、と俺は意味のない笑みを浮かべた。せっかく誰にも見られないように操作していたのに、結局は見られてしまうんじゃないか。 「……じゃあこれ、お願いします」
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