307人が本棚に入れています
本棚に追加
武志さんはサイト上の玲遠をせっせと最新のものに変えている。同時に、例の大股を広げた玲遠や、ギリギリまで下着を下ろして脚の付け根を見せている玲遠が、次々とアップロードされてゆく。ボーイの中にはもちろん顔を隠して画像を載せている人もいるけれど、顔も身体も潔く曝け出して堂々としている玲遠は、何だか本人そのものより男前に見えた。
顔出しするということは、誰にバレても構わないということなのだろう。失うものなどないという、玲遠の意思が伝わってくる。俺には絶対に真似できないことだ。
「玲遠さんて本当に人気なんですね」
画面に表示されている玲遠のスケジュール表は、一週間先まで埋まっている。何時から何時まで何分の予約、という細かい予定が今日だけでも四件は入っていた。それは、玲遠が今日だけで四人の男とセックスをするということをも意味している。そんなにして疲れないのだろうか。いや、大変だからこそその分給料も多いのだろう。
だけどそもそも、体を売るなんて本当に最終手段じゃないか。玲遠に限らず大河や他のボーイ達も、せっかく男前で若いのに、安全な世界で地道に働きたいとは思わないのだろうか。
「玲遠はサイトに顔出ししてるから、指名入りやすいんだよ。本人も楽しんで仕事してるし、お客さんの前だと憎たらしいことも言わないしね。甘え上手だからチップもそこそこもらえてるみたいだし、ウチで今一番辞められたら困る子だよ」
撮影時の役者ぶりを思い返せば、客の前で媚態を示す玲遠の姿が容易に想像できる。俺は妙に納得して頷き、画面上の玲遠をぼんやり見つめた。
「あと、待機室の管理も教えとくよ。基本的にボーイなら誰でも利用できるんだけど、入る前は必ず俺達に報告してもらうことになってるから。そしたらこのノートにボーイの名前と入った時間、渡したロッカーの鍵の番号を書いておいてね。当日待機してるボーイに予約が入ったら、このインターホンでお知らせする感じ」
「待機室に来ないボーイさんもいるんですか?」
「うん、ていうか殆どが自宅待機かな。電話で知らせて時間通りに指定の場所へ行ってもらうんだよ。でも実家暮らしとか恋人と同棲中とかで自宅待機できない子もいるから、そういう時のための待機室だよね」
「なるほど、ボーイさんのことよく考えてあるんですね」
思わず感心すると、武志さんが得意げに笑って自分の胸を拳で叩いた。
「当然。主役はボーイの子達なんだから、体調管理にメンタルケア、売れるためのアドバイスから恋愛相談まで何でもするよ」
「すごいな……」
「一番重要なのは、お客さんとのトラブルの仲介だよね。さっき社長も言ってたけど、ボーイに変な真似する人も中にはいるから。そういう時は即座に連絡してもらって、社長が現場に踏み込むんだ。大抵のことはそれで瞬時に解決するから」
確かに、後ろめたいことをしている最中に突然ハルトが現れたら客も慌てるだろう。だけどハルトや武志さんはいいとしても、俺のような貧弱な男が乗り込んで行って解決できるものなのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!