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「それって、……風俗関係ですよね。出張ヘルスとか、出張ホストとか、そういう……」
「察しがいいな。その通りだ」
「……やっぱり」
俺は荷物を持つ手に力を込め、目の前の大嘘つきを睨み付けた。
「そんな目で見るなよ。ていうか、勘違いしたのはお前の方だろ。こっちはちゃんと営業許可も取ってる。非合法でも何でもない、れっきとした商売だぞ」
「俺にも体売らせるってことですか。絶対嫌です、そんなおぞましいこと考えたくもない」
すると、ハルトが腰に手をあてながら満面の笑みを浮かべた。
「心配すんなよ。みんな、始めはそう言うんだ」
「お、俺は嫌ですってば!」
上京してまで売春なんて絶対に御免だ。そんなのは本当に、最後の最後の手段でしかない。わざわざ自分からそんな世界に飛び込むなんて、死にに行っているようなものだ。
「まあ、別に無理矢理やらせるつもりはねえから。嫌なら結構、帰ってもいいぞ。ちゃんと面接した訳じゃねえから、交通費は出せないけどな」
「………」
人の裸まで見ておいて、無理と分かった途端にこの態度。
俺は荷物を持つ手に力を込めながら、ぼそぼそと呟くように言った。
「……今日から住み込みで働けるって聞いてたから、そのつもりだったし、……もうネカフェに泊まる金もないんですけど」
「何だよ、本当に一文無しか。無計画で上手く行くほど都会は甘くねえぞ」
正論だが、いや、正論だからこそ腹が立つ。
「どうする。一晩くらいなら泊めてやってもいいけど」
「別に、公園で寝るから」
「そんな荷物持って公園なんかで寝てたら、あっという間にタコ部屋行きだぞ。それか、変態共にマワされる」
黙り込む俺に、ハルトが続けた。
「そんな疑うなって。俺は純粋な親切心で言ってやってんだからな。お前が危険を承知で、それでも公園で過ごすって言うなら止めねえけどさ」
「……じゃあ、一晩だけ泊めてください」
この男を信用した訳ではないが、確かに公園で寝るよりは安全だ。盗まれても困るような荷物はないし、万が一襲われたとしても、複数人の変態にマワされるよりはまだこの男の方がマシだ。
……結局。一晩だけならということで、俺は好意か下心かも分からない彼の申し出を受け入れることにした。
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