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あかい、あかい。
ウチの中学校に、脅迫状が届いたらしい。
そしてその脅迫状の差出人は、“彼女”であるらしい。
林間学校の最中、それを聞いた私が思ったことは一つだった。まあ、そういう気持ちになっちゃうのも仕方ないのかな、である。
「まだお弁当が届いてない人いますかー?いたら手を挙げてくださーい!」
配膳のおばさんが声をかけて回っている。今は夕食時。私達のクラスは既に風呂を済ませてあるので、このごはんを食べたら歯を磨いて寝るだけという状況である。
本来ならば、一年生全員で一緒に御飯を食べる方向に持って行きたかったのだろうが、生憎この宿舎の風呂は狭い。一度に入れる人数は限られているし、全員で風呂の後に殺到すると当然混雑して大変なことになってしまう。あわせて食事の時間もズラす必要が出てきてしまうのは、仕方ないと言えば仕方ないことではあるだろう。
おばさんが“中津食堂”という大きな配膳版を持って歩いていくのを横目で見ながら、私はため息をついた。美味しそうなお弁当ではあるし、カツは好きだけれど――噂通り、まさか本当に晩御飯がお弁当になろうとは。ここの食堂が閉鎖されたのは何年も前だとかで、今は泊まる学生たちはみんなよそからお弁当を取るしかない状況であるらしい。
まあ、食中毒を起こしてしまったというのなら仕方ないことではあるのだろうが。果たして晩御飯がお弁当一個で足りるだろうか、と不安になってしまう。いかんせん、私は大食いの自覚が大いにあるのだ。
「美雨ちゃん、足らなそうだよねえ、お弁当」
にやにやしながら言い出したのは、同じ班の仲良しである愛沙だ。
「お弁当余ってたらもう一個貰えるかもよ?言ってみれば?」
「そうしたいのはヤマヤマだけど、私にも羞恥心ってものはあってだねえ……」
「給食のおかわりを毎日のように壊滅させておいて、今更何恥ずかしがってるんだか。恥を取るか、お腹の虫を取るか、よーく考えるこったね」
「うう、意地悪……」
私が空腹に耐え兼ねるであろうことを知っているくせに、そういうことを言うんだから彼女は意地悪だ。反応すればするだけ面白がらせてしまうだろうことを知っているので、私はむっすりと黙り込むしかない。
この話題を続けていてはダメだ。何か別の話をしなければ。――そう考えて思い出したのが、例の“脅迫状”の件だった。
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