あかい、あかい。

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 それでもだ。だからどうして助けに入るなんてことができるのか。自分が標的になるのがわかっていて、そんな真似を出来る人間など漫画の中にしかいないのである。由彩子が親友だったのならともかく、実際は話したこともあったかどうか怪しいくらいの他人だったのだから尚更に。助けてやる価値と、自己犠牲を天秤にかけてしまうのは――ごく自然なことではないか。  それなのに、お前らも共犯だ、みたいに扱われて憎しみを向けられては――たまったものではないのである。 ――私たち、いじめた本人じゃないもん。しょうがないじゃん。殺される理由なんか、あるわけないでしょ。  やはり、夕食時にするべき話ではなかった。私は自己嫌悪に陥り、ちらりと奥の方の席に視線を投げた。  由彩子を虐めていた女子三人のグループは固まって、相変わらずの大きな声で騒いでいる。リーダー格の彼女が大笑いしているのを見て、より憂鬱な気分になってしまう。脅迫状の件は彼女達も知っているはずである。それなのに、自分達が危ないとは微塵も思っていない。どれだけ罪の意識というものが欠如しているのだろう。  あんた達のせいでこんな嫌な気分になってるのよ、と本心は言いたい。もっとも、そんなことを言える勇気があるのなら、きっと由彩子へのイジメだって止められていたのだろうけれど。 「とにかく、今は学校から離れてるからいーけど。帰ったらちょっと気をつけた方がいいかもねー、逆恨みされたらたまんないし」  うんうん、と頷きながら肉団子を頬張る愛沙。 「ていうか、結構このお弁当美味しい。今年のうちら、ラッキーだったかもよ?毎年この施設使ってるけど、いつもあそこのお弁当ってわけじゃないでしょ」 「そうだね。もう少し量があればもっと良かったー」 「美雨ちゃんさすが、歪みない」  由彩子のことなんか今は忘れるべきだ。私たちはお弁当と、明日以降のスケジュールについて盛り上がった。そういえば明日のハイキングコースはどうだっけ、とか。誰かさんが迷子になりそうでヤバイ、とか。  それでもちくりと、胸を刺すものもあるのである。――本当は彼女も、こうやって誰かと笑い合いたかっただけなのかもしれない――と。 ――本当に。こういうのって、どうすれば良かったんだろうね……。  忘れよう、忘れようと言い聞かせる。そんなことより今大事なのは、お弁当のおかわりを貰えるかどうかの方なのだから。
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