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「景子さんはなにが好き?」
「景子ちゃん今度一緒にサッカーでも観に行かね?」
「景子さん、映画はお好きですか」
小さな会議室は異様な空気に包まれていた。
私のようなブスを三人のイケメンが取り囲み、それぞれ熱烈にアプローチしてくるのだ。Bクラスの男性たちは呆然。彼らを狙っていた女性たちはあからさまに苛立っている。
「おれが景子さんと話すんだ」
「引っ込んでろ、俺が先だ」
「きみたちは醜態という言葉を知らないのかい? 景子さん、ぼくと向こうで話しませんか?」
私を巡って険悪な雰囲気になる三人。
「あ、あの、私のためにケンカするのはやめてください」
ほんと、どうしたっていうの。
これじゃあ逆ハーレムじゃない。
夢でも見ているのかと自分の頬をむにっとつねってみたけどイケメンたちは消えない。
それどころか心配してくれた。
「そんなことしたら痛いじゃないか、景子さん」
「ほんと面白いなぁ景子ちゃんは」
「傷になったらどうするんですか、心配させないでください」
もうこのまま死んでもいい。
むしろ死なせて。
発狂しそうになる中、ふと夏川さんの姿が視界に入った。
白いカーディガンを羽織った小柄な女性に話しかけられている。
(なんだ他の人とも話するんじゃん)
私にアプローチしておきながら、話しかけられれば素直に応えている。
ちくっと胸が痛んだ。
なんだかちょっと妬く。ちょっとだけね。
「はいはいはーい!フリータイム終了でーす!さっさと離れてください!!」
やけっぱちになったように愛美が叫んだ。
男女はそれぞれ二箇所に別れ、最後のマッチングカードを記入する。
6番の浩太さんは王子様みたいにさわやか。
12番の康志さんは明るくて元気。
5番の冬木さんはオレ様系でどきどきする。
ちらっと三人を見た。
視線に気づいてそれぞれ手や目線で合図してくれる。
彼女になれたら、きっと幸せだろうな。
きっと自分に自信が持てるだろうな。
きっと今までよりきれいになれるだろうな。
きっとたくさん笑えるだろうな。
(どうしよう一人になんて絞れないっ)
いつになく悩んでいると視線を感じた。愛美だ。
分かっているでしょうね、とばかりに私をにらんでいる。
集計するのも発表するのも愛美だ。その気があれば、私が書いたものをなかったことにできるだろう。
頭の中では分かっている。
私はサクラだ。参加者とマッチングして他の参加者のモチベーションを下げてはいけない。相手がイケメンたちとなれば尚更。だからいつもは何も記入しない。マッチングしないことがサクラの条件だからだ。
それでも私は嘘をつきたくない。
もうそろそろ正直に生きたい。
私だって、結婚、したいんだ!!
※
「お待たせいたしました。いよいよ運命のカップルの発表です!」
静まり返った会議室で、私たちは発表を待っていた。
私が書いたのはこうだ。
優先順位1・・・6番
優先順位2・・・5番
優先順位3・・・12番
より優先順位の高いほうからマッチングが発表されていく。
「今回はなんと三組ものカップルが誕生しました!まずは男性番号12番」
いきなり康志さんの番号が呼ばれドキッとした。
11番の私がもう呼ばれちゃう? どうしよう、浩太さんや冬木さんは。
マイクを握りなおした愛美が大きく息を吸う。
「女性番号は――――3番!おめでとうございます!」
照れくさそうに立ち上がったのは青いワンピースの清楚な女性だった。
(……え)
肩の力が抜ける。
3番の女性と康志さんは軽く会釈をして並んで立つ。お似合いだった。
「つづいてのカップルを発表します。男性番号5番!」
今度は冬木さんだ。
またしても心臓が早鐘をうつ。
今度こそ、私か?
「女性番号は――――1番!おめでとうございます!」
また、ちがう女性(ひと)だ。
立ち上がったのは茶髪で化粧が派手な人。でも美人。
(あれ、どうして。おかしいな)
頭の中がぐるぐるしてきた。
康志さんも冬木さんも第一印象カードでは私にしか○をしていなかった。
もちろんフリータイム中に別の人が気になってもおかしくないんだけど、あんなに短い時間で心変わりするの。
(ねぇ……浩太さんは?)
私はそっと浩太さんの様子をうかがった。
足を組んで椅子にもたれかかっている彼は私に気づいて小さく手を振る。
あぁ大丈夫だ、きっと私を選んでくれた。そう安心できた。
「ではいよいよ最後です。男性番号6番!」
「はい」
そう返事をして立ち上がった浩太さんはやはり格好良かった。
一挙一動がサマになる。
王子様のような彼の横に立つのは、きっと私だ。
「では発表します。彼の心を射止めた女性は――――」
愛美がちらっと私を見た。
その瞬間。
私は。
息が止まりそうになる。
「女性番号13番の方です!誠におめでとうございまーす!!」
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