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「5番の冬木望です。会計士をしています。よろしくお願いします」  6番からスタートしたので番号が戻ってきて、礼儀正しいイケメンが回ってきた。  名前:冬木望  ニックネーム:特にありません  年齢:35歳  血液型:A  職業:会計士  学歴:大卒  趣味:映画鑑賞、読書  住所:一人暮らし  家族構成:父母  ペット:犬  休み:土、日曜  休日の過ごし方:ジョギング  相手の条件:将来的に父の経営する会計事務所を手伝ってくれる方  一言:一期一会に感謝します  びしっと決まったスーツに黒縁の眼鏡。地味に見えて髪の毛は少し染めている。袖口からちらっと覗く腕時計は文句なしのブランドものだし、靴もピカピカ。「お金あります」アピールがさり気ないけどすごい。そして清潔感もポイント高い。  10人以上の男性と話をすると疲れてしまうものだけど、こういうAランクを前にすると自然と背筋が伸びる。  それに、将来のことを想像しやすい相手って安心感がある。 「冬木さんはいまお父さまの会計事務所に勤めてらっしゃるんですか?」 「はい。父に甘えてはいけないと30歳までは監査法人に勤務していましたが、年齢的にそろそろ跡を継いでほしいと言うので転職しました。正直、父の方が厳しいですね」  ちょっと恥ずかしそうに頬をゆるめる。笑ったときの顔、可愛い。 「いまは会計士ですがいずれは社労士の資格も取って、困っている企業さんを総合的にサポートできればと考えています」 「すごい、立派ですね」  熱く夢を語る人。  いいなぁ。 「すいません、ぼくの話ばかりしてしまいました。景子さんは料理教室に通っていらっしゃるんですね」 「はい、将来結婚する相手に美味しい料理を作ってあげたくて」  ごめんなさい。  本当は通ってないです。 「いいですね。景子さんはとても真面目そうだし、そのうえ家庭的で、毎日が楽しそうだ」 「そんなことないですよ」  打てば響くっていうのかな、こういう軽快なやりとりにずっと憧れていた。  私がどんなに気を遣って喋っても「はぁ」とか「ふーん」って反応ばかりだったから。  ほんと今日はどうしたんだろう。  明日死ぬとか、天変地異の前触れとかじゃないよね。 「あと30秒でーす。最後のお相手ですからね、アピール忘れないでくださいね」  愛美の声も嗄れてきた。  そうか、いよいよ最後の人か。 「景子さん、ここまで色んな方とお話してどうでした?」 「疲れましたけど、最後のお相手が冬木さんで良かったです。すごくしっかりしていらっしゃるから、だらけた姿を見せないで済みますし」  なんて、私の場合は背中に肉がつきすぎていて、姿勢良くしていても猫背に見えちゃうんだけどね。 「景子さん、気が早いですがこのあとのご予定は?」 「え……特になにもありませんが」 「そうなんですね。ぼくはせっかくなので一泊していこうと部屋をとったんですが、良ければ一緒に夕飯でも」  ちょっと待って。それってまさか。 「はい終了です! 第一印象カードを書いてもらいますので男性はあっち、女性はこっちに移動してください」  愛美の声で周りが動きはじめる。 「失礼しました。まだマッチングもしていないのに性急でしたね」  申し訳なさそうに立ち上がった冬木さん。細い体が一瞬傾いだ。 (あぶない)  そう思う間もなく冬木さんが私の方に倒れ込んでくる。  あっと思ったときには私の椅子を支えにした冬木さんの顔がすぐ間近に迫っていた。  壁ドンならぬ椅子ドンだ。 (うひゃあ、睫毛長い……!)  こんなに男の人と至近距離だなんて。  心臓がばくばくしてくる。汗のにおいとか大丈夫だよね。 「失礼しました。あなたがあまりにも魅力的だから、つい」  耳元で、吐息。  とろけちゃうよー。 「第一印象カードはだれに○しても構いません。あなたが他の男と話すのは悔しいですが我慢します。だから、最終決定の『マッチングカード』だけは5番にしてくださいね。約束ですよ」  そう言い残して去っていく冬木さん。  あまりの衝撃に私はしばらく動けなかった。  おとなしい優等生タイプに見えて実は独占欲の強いオレ様系だったのか。  予想外すぎて心臓が止まりそうだったよ。
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