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絵麻にはもちろん、ハリーの言葉は分からない。まさかしゃべれるとは思っていないだろう。しかし、絵麻は、動物の気持ちがなんとなく分かるらしい。
(動物好きの才能)
二人の、いや一人と一匹の、とりとめのない会話は続いていた。
ヒロは軽くため息をつき、キッチンへ戻る。香ばしいチーズの匂いが漂ってきた。タイミング良く、電子音が鳴る。
チーズがフツフツと弾んでいる。表面のこんがりとした焼き色を確認し、オーブンを開けた。
(二百歳差、会話に困る)
ぼんやりそんなことを考えていたら、うっかりグラタン皿に素手で触れてしまった。
「うわ、あちっ!」
慌てたヒロは声をあげた。
「店長、大丈夫ですか」
すぐさま絵麻が飛んでくる。
「うん、だいじょ」
「赤くなっています、冷やさなきゃ」
絵麻に手をつかまれ、ヒロは「うわ」とまた叫ぶ。
「早く、店長」
そのまま手を引かれ、水道水をかけられる。
「しばらくこのままで」
「うん」
なぜかずっと手を握られている。
このくらいたいしたことない。患部を冷やすくらいのこと、一人でじゅうぶんできる。しかし。
「痛くないですか?」
「あ、うん」
ヒロは絵麻に「もう、いいよ」と言えずにいた。火傷の痛みを感じるよりも、二人の距離が縮まった(物理的な)ことへの喜びが勝ったせいだ。
(いや、待てよ)
そこで我に返る。
「だ、大丈夫だから」
タオルで手をふき、ヒロは急いで窓際のゲージへ向かった。ハリーが冷やかしてくる前に、火傷だから、と言い訳するつもりで。ところが。
ハリーは、気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。
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