ハロウィンかぼちゃのドフィノワ風

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【3】  きつね色のチーズが、びよーんと伸びる。ソースはデンプンのおかげかとろみが出ていて、かぼちゃにほどよく絡まった。単純な味付けながら、ベーコンの塩気とコク、ハーブの軽い刺激が、絶妙な仕上がりにしている。 「わー、幸せ」  絵麻は頬を押さえて笑顔になる。 「シンプルなのに濃厚。店長、隠し味、今日もしっかり効いてます」 「お、よく気づいたね」  ヒロは絵麻のために、料理にたっぷり愛情を注いだ。 「店長の彼女になる人はきっと幸せですね。こんな美味しい料理がいつも食べられるんだから」 「彼女?」  唐突に恋バナをはじめる絵麻に、ヒロは戸惑う。 「はい。イケメン店長ですから、恋人の一人や二人」 「ふっ、いたらいいけどね」 「いないの、不思議ですよ。女性客もみんな店長のファンですし。なにか、理由があるのかなって」 「大人を、」  からかうなよ、そう言おうとしたが。  自分を見る絵麻の目が、あまりにも真剣で驚く。 「たとえば、忘れられない人がいる、とか」 「忘れられない……?」  ヒロの靄がかかった記憶から、一瞬、千日紅を摘む誰かの白い手が見えた。 『たくさん摘んでブーケにしましょう』  やわらかな光の中に、人影があらわれる。  大事な人がそこにいる、そんな気がした。  記憶に向かって腕を伸ばした途端、速度をあげて遠ざかっていく。 「店長? どうしたんですか?」  絵麻の声に、ヒロは自分がぼんやりしていたのだと気づいた。 「最近、物忘れがひどくて。そんな人いたかな〜って考えてた」  ははは、と笑う。
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