122人が本棚に入れています
本棚に追加
秘密のクリスマスチキン
【1】
(あやしい、あやしすぎる)
ハリネズミのハリーはゲージを抜け出し、キッチンで鼻歌まじりに仕込みをするヒロを盗み見た。
(ご機嫌だな)
ハリーはカウンターの隅っこで肘を付いて横向きに寝そべる。
ハリネズミがそんな格好できるわけがない?
ハリーはただのハリネズミではない。
(そこそこできる魔法使いの、超優秀な使い魔だからな)
自ら魔法を発動することはできないが、動物離れした毒舌っぷりにはハリーの主でありカフェの店主のヒロもたじたじだ。
(つまり、おいら最高)
ハリーは得意げになった。主であるヒロと自意識過剰なところが隨分似てきたようだ。
(しかし定休日なのに仕込み?)
ハリーは短い前足でぽりぽりと体を掻いた。
深夜零時、『ハーブカフェ・玻璃』の入り口にはすでに「定休日」の札がかかっていた。
平日火曜日とはいえクリスマス・イブであるのに定休日。だったらさっさと寝ればいいものを、一体ヒロは何をやっているんだとハリーはあやしんでいた。
(しかもチキンを仕込み中)
現代日本でクリスマスと言えばチキン。某フライドチキンファストフードチェーン店の流行とともに広まったのではないかと推測される。
ハリーにすれば、七面鳥でもチキンでも美味ければいい。可愛い小動物の姿をしながら、その実体はありとあらゆる料理を食らうグルメハリネズミなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!