秘密のクリスマスチキン

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「口金を手で支えて、力を均等に」 「む、難しいです。お手本見せて下さい」  チッキンではケーキに生クリームを絞っているところだった。 (ほら見ろ。やっぱりチョコケーキじゃなかった)  ハリーはカウンターの端っこからヒロと絵麻の様子をこっそり伺う。 「ほら、こんな風に」 「店長、さすがです」 「いやぁ、それほどでも」  絵麻におだてられデレるヒロを見て、ハリーは溜息をついた。 (さっさと告ればいいのに)  ハリーは知っている。  ヒロが絵麻に恋をしていること。  絵麻もヒロのことが気になっていること。  半径数メートル内の両片思いにハリーが一番じれじれさせられているのだ。 (クリスマス・イブなんて絶好のチャンス……)  そこでハリーはハッとした。  もしや。  いや、そうに違いない。  二本のチキンと生クリームのクリスマスケーキの意味に気づいたハリーは愕然とする。 (まさか、二人でクリスマス?)  ハリーはその場にくずおれた。 (おいら……邪魔者……)  瞳に涙を浮かべたときだった。 「ハリー、おはよう?」  カウンターの隅にハリーを見つけた絵麻が顔を寄せてきた。 【おはようじゃねぇよ】 「メリークリスマス」 【二人で勝手にやってろ】 「今日はハリーも一緒に楽しもうね」 【…………】  まるでハリーの気持ちが分かっているかのようだ。ただの人間なのに、とハリーは絵麻を仰ぎ見る。  すると、カフェのドアが開いた。
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