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【3】
カフェにやってきた客は無遠慮に店内をあちこち見渡すと、そこはかとなく哀愁を漂わせているクリスマスツリーを見つけ近寄っていく。オーナメントだけは新調したものの十数年前の代物だ。鮮やかな緑色をした人工的な木の葉が、どことなく古めかしい。
「ツリーちっさ」
「色がへん」
(口の悪い客だな)
カウンターの上からハリーは様子を窺っていた。
スカート部分が千鳥格子柄の切り替えワンピースを着た、ツインお団子ヘアの小さな女の子が二人。そろってツリーの前で渋い顔をしている。二人のワンピースは色違いで、黒とサーモンピンクと大人っぽいチョイスだった。
彼女たちはそっくりな顔立ちをしており、双子の姉妹だと分かる。
「いらっしゃいませ。お待ちしていました」
ツリーのそばまでやってきた絵麻が、腰をかがめて小さなお客様の目線になる。
「ヒロおじさん、いますか?」
黒いワンピースの女の子が言った。
(ヒロおじさん?)
ハリーは耳を澄ます。
慌ててキッチンから出てきたヒロは、「いらっしゃい」と、困惑気味な笑顔を浮かべていた。
「ええと、サラとアン……だよな?」
ハリーは紙ナプキンの端を持ち、パラグライダーのようにしてカウンターから飛び降りる。着地するとすぐさまトトトトと走り出し、ヒロの後を追った。
【ヒロ、待て】
「ん?」
ハリーはぴょんとヒロのスニーカーに乗る。それから体をよじのぼり肩まで辿り着くと、後ろ足を懸命に伸ばしてつま先立ちした。
【サラとアンだって?】
ヒロの耳元で囁く。
「そう、アリス姉さんの子供だ。俺は姉がいたことさえすっかり忘れてたけどな。急に連絡があって預かってくれってさ」
ヒロは肩に乗ったハリーに小声で返す。双子はヒロの姉・魔女アリスの娘、つまりヒロからすれば姪である。
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