秘密のクリスマスチキン

1/9
121人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

秘密のクリスマスチキン

【1】 (あやしい、あやしすぎる)  ハリネズミのハリーはゲージを抜け出し、キッチンで鼻歌まじりに仕込みをするヒロを盗み見た。 (ご機嫌だな)  ハリーはカウンターの隅っこで肘を付いて横向きに寝そべる。  ハリネズミがそんな格好できるわけがない?  ハリーはただのハリネズミではない。 (そこそこできる魔法使いの、超優秀な使い魔だからな)  自ら魔法を発動することはできないが、動物離れした毒舌っぷりにはハリーの主でありカフェの店主のヒロもたじたじだ。 (つまり、おいら最高)  ハリーは得意げになった。主であるヒロと自意識過剰なところが隨分似てきたようだ。 (しかし定休日なのに仕込み?)  ハリーは短い前足でぽりぽりと体を掻いた。  深夜零時、『ハーブカフェ・玻璃』の入り口にはすでに「定休日」の札がかかっていた。  平日火曜日とはいえクリスマス・イブであるのに定休日。だったらさっさと寝ればいいものを、一体ヒロは何をやっているんだとハリーはあやしんでいた。 (しかもチキンを仕込み中)  現代日本でクリスマスと言えばチキン。某フライドチキンファストフードチェーン店の流行とともに広まったのではないかと推測される。  ハリーにすれば、七面鳥でもチキンでも美味ければいい。可愛い小動物の姿をしながら、その実体はありとあらゆる料理を食らうグルメハリネズミなのだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!