鉱物スイーツと真夏の怪

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鉱物スイーツと真夏の怪

【1】  鉱物は神秘的で興味深い。たとえば緑柱石(りょくちゅうせき)には様々な色があり、緑色はエメラルド、青色はアクアマリンなど、色によって異なる宝石に生まれ変わる。  中でも赤色は希少で高価だ。 「レッドベリルもできたな」  カフェの店主である堀田ヒロは、満足げに容器の中で揺れる、透明度の高い赤い物体をながめる。ローズヒップティーで作ったゼリーだ。  赤色だけではない。業務用冷蔵庫にはカラフルなゼリーが入った容器がいくつも並んでいた。  ヒロは、少し固めのゼリーへと斜めにナイフをいれていく。カットによって宝石のように輝きを増したそれらをパフェやケーキに合わせれば、『鉱物スイーツ』のできあがりだ。 「夏の日のアクアマリンソーダ」  青い海を思わせるソーダに水色のゼリーが沈んでいる。 「懐かしの琥珀パフェ」  ミルクティー風味のアイスに紅茶ゼリーが盛られている。  厳密に言えば、樹脂の化石である琥珀は、天然に産した無機物(鉱物)ではない。そこは料理人のセンスに免じて許してほしい。 「俺って、天才?」  ヒロは自画自賛して照れくさそうに笑う。しかし。  連日の猛暑に涼しい新メニューを掲げた『ハーブカフェ・玻璃』ではあるが、ここのところ客足は遠のいていた。 【おめでたいヤツだな】  ハリネズミのハリーが顔を出す。ハリネズミだけど会話ができる。ハリネズミだけどアイスをなめる。 「そんなの食って、大丈夫か?」 【おいらをなんだと思ってるんだ】  ヒロの使い魔ハリーは胸を張る。白と黒のハリを持つスタンダードなハリネズミとは違い、ハリーのハリは薄茶色をしている。 【だからって試食ばかりさせるな】  ハリーは魔法の契約によって魔力を携えたハリネズミであり、へらへらしている店主のヒロはそこそこできるほうの魔法使い、だった。
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