121人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
鉱物スイーツと真夏の怪
【1】
鉱物は神秘的で興味深い。たとえば緑柱石には様々な色があり、緑色はエメラルド、青色はアクアマリンなど、色によって異なる宝石に生まれ変わる。
中でも赤色は希少で高価だ。
「レッドベリルもできたな」
カフェの店主である堀田ヒロは、満足げに容器の中で揺れる、透明度の高い赤い物体をながめる。ローズヒップティーで作ったゼリーだ。
赤色だけではない。業務用冷蔵庫にはカラフルなゼリーが入った容器がいくつも並んでいた。
ヒロは、少し固めのゼリーへと斜めにナイフをいれていく。カットによって宝石のように輝きを増したそれらをパフェやケーキに合わせれば、『鉱物スイーツ』のできあがりだ。
「夏の日のアクアマリンソーダ」
青い海を思わせるソーダに水色のゼリーが沈んでいる。
「懐かしの琥珀パフェ」
ミルクティー風味のアイスに紅茶ゼリーが盛られている。
厳密に言えば、樹脂の化石である琥珀は、天然に産した無機物(鉱物)ではない。そこは料理人のセンスに免じて許してほしい。
「俺って、天才?」
ヒロは自画自賛して照れくさそうに笑う。しかし。
連日の猛暑に涼しい新メニューを掲げた『ハーブカフェ・玻璃』ではあるが、ここのところ客足は遠のいていた。
【おめでたいヤツだな】
ハリネズミのハリーが顔を出す。ハリネズミだけど会話ができる。ハリネズミだけどアイスをなめる。
「そんなの食って、大丈夫か?」
【おいらをなんだと思ってるんだ】
ヒロの使い魔ハリーは胸を張る。白と黒のハリを持つスタンダードなハリネズミとは違い、ハリーのハリは薄茶色をしている。
【だからって試食ばかりさせるな】
ハリーは魔法の契約によって魔力を携えたハリネズミであり、へらへらしている店主のヒロはそこそこできるほうの魔法使い、だった。
最初のコメントを投稿しよう!