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「将来は、何になりたいんだ。ユキエ。」
「たかぽんみたいな先生になりたい!
私、たかぽんみたいに皆を笑顔にする仕事がいいの!」
放課後、俺は職員室で進路に悩む生徒の話を聞いていた。
俺は、進路指導の教科担任でもある。
高校3年生、1番大事な時期だ。
その大事な時期に関われることを、俺は誇りに思う。
皆、悩み苦しむ。俺に様々な思いをぶつけてくる。中にはもう死にたいと言ってくる生徒もいる。そんな生徒には俺の想いを全力でぶつける。
生徒が最善の道に行けるようにするのは、教師として当然のことだ。
ユキエは教師になりたいらしいが、親が代々医者の家系らしく。
ユキエに医者になれと強制してくるらしい。
ただ、母親は彼女を応援してくれている。教師も人の役に立てる素晴らしい仕事だと理解していた。
父親は断固、医者にすると聞かない。
聞くところによると、父親はかなりの名医との噂。不治の病と言われていた難病の新薬を作ったらしい。人呼んで、「奇跡の医者」。
その名に相応しく、彼女の父親のおかげで救われた命は数知れずだ。
・・気持ちはわかる。
娘にも人を助け、全員を笑顔にさせる仕事をさせたいんだろう。
でも、教師だって皆の前に立ってその場にいる全員を笑顔にさせられる、中々いい仕事なんだ。
それを理解させてやる。
ずれたメガネをくいと上げて、俺は話す。
「父親に会わせてくれ。俺が説得する。
教師になりたいなら、なればいいんだユキエ。
諦めたら、ダメだ。」
「でも・・医者の権力を使ってたかぽんを押さえつけるかも・・。
学校とかに働きかけたりして、授業させなくしたり・・。そんなのいや」
ユキエが涙目だ。
俺は彼女に向かってニッコリ笑う。
「大丈夫。あっちがそうなら、俺は数学で押さえつけてやるさ。今日はちょっと用事があるから無理だが。
明日、行くからな。お前の家に。」
それを聞いた彼女は小さく頷き、帰っていった。
医者ならかなり頭がいいだろう。
得意な数学なら、負けない自信が俺にはある。必ず納得させる。
俺は、メガネをくいと上げた。
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