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「この、点Pから描かれた図形は・・」
退屈な数学の授業を聞きながら、私は小さくあくびをした。
目の前にいる先生の声はだんだん大きくなる。チョークの音も。
短い、茶色の髪から流れてる汗すごい。
メガネが少しズレてるのも気にならないみたい。
「たかぽん、めっちゃ気合い入ってるよね、アオイ。」
「うちら、一応受験生じゃん」
ヨウコの言葉に、私は答える。
「点P!一体どこに消えてしまったんだ!点P!
と、さとし君は言いながら闇雲に点Pを探す!」
ヒートアップしてる。
はは、と笑い声が起こる。
さとし君が点Pを探すってなんなの。
ここは、一ツ橋高校。
言わずとしれた私立の名門校だ。
生徒達も頭のいい子が多い。
まあ、何人かはマグレで受かった子もいるみたいだけど。
私もマグレで受かった1人。
先生達もすごい人が多い。
目の前にいる小野隆先生は、超天才が集まるあの東芸専門大学、略して東専大の教授のオファー、蹴ってここに来たってウワサだけど。
教授のオファーが来るぐらい、頭がいいのかな。
でも、人柄はすごくいい。授業は分かりやすいし、常に生徒達や先生達の悩み相談に乗るのだ。必要とあらば家庭訪問までする。
担任だってそんなことしてくれないけど、小野先生は違う。どんな時でも、この学校にいる全ての人の味方でいてくれるのだ。
間違いなく、他の先生達よりは信頼出来るいい先生だ。私もそう思ってる。
・・まあ、かなり暑苦しいけどね。
「たかぽーん」
「どうした?ミサ。」
「点Pって何で点Pって言うの?」
小野先生は、ずれたメガネをくいと上げる。
いつもの癖だ。
「わかった、これから説明してやるからまあ待て。
よーし、点P!そこにいたのか!今助けるぞお!皆、せーので『点P!』って叫んでくれ、いいか。せーの!」
ガラッ
「小野先生、静かに」
「はは、すみません。」
同時に終わりのチャイムが鳴る。
「じ、じゃあ、今日はここまで。
皆、ちゃんと復習するんだぞ。
ミ、ミサ。すまん。点Pの質問の答えはまた次の授業でな」
数学の教科書を持ち、そそくさと教室から出ていく小野先生。
・・教授のオファー来たってホントなのかな。
私はため息をついた。
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