1 万能になりたい

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「この、点Pから描かれた図形は・・」 退屈な数学の授業を聞きながら、私は小さくあくびをした。 目の前にいる先生の声はだんだん大きくなる。チョークの音も。 短い、茶色の髪から流れてる汗すごい。 メガネが少しズレてるのも気にならないみたい。 「たかぽん、めっちゃ気合い入ってるよね、アオイ。」 「うちら、一応受験生じゃん」 ヨウコの言葉に、私は答える。 「点P!一体どこに消えてしまったんだ!点P! と、さとし君は言いながら闇雲に点Pを探す!」 ヒートアップしてる。 はは、と笑い声が起こる。 さとし君が点Pを探すってなんなの。 ここは、一ツ橋高校。 言わずとしれた私立の名門校だ。 生徒達も頭のいい子が多い。 まあ、何人かはマグレで受かった子もいるみたいだけど。 私もマグレで受かった1人。 先生達もすごい人が多い。 目の前にいる小野(おの)(たかし)先生は、超天才が集まるあの東芸(とうげい)専門(せんもん)大学、略して東専大(とうせんだい)の教授のオファー、蹴ってここに来たってウワサだけど。 教授のオファーが来るぐらい、頭がいいのかな。 でも、人柄はすごくいい。授業は分かりやすいし、常に生徒達や先生達の悩み相談に乗るのだ。必要とあらば家庭訪問までする。 担任だってそんなことしてくれないけど、小野先生は違う。どんな時でも、この学校にいる全ての人の味方でいてくれるのだ。 間違いなく、他の先生達よりは信頼出来るいい先生だ。私もそう思ってる。 ・・まあ、かなり暑苦しいけどね。 「たかぽーん」 「どうした?ミサ。」 「点Pって何で点Pって言うの?」 小野先生は、ずれたメガネをくいと上げる。 いつもの癖だ。 「わかった、これから説明してやるからまあ待て。 よーし、点P!そこにいたのか!今助けるぞお!皆、せーので『点P!』って叫んでくれ、いいか。せーの!」 ガラッ 「小野先生、静かに」 「はは、すみません。」 同時に終わりのチャイムが鳴る。 「じ、じゃあ、今日はここまで。 皆、ちゃんと復習するんだぞ。 ミ、ミサ。すまん。点Pの質問の答えはまた次の授業でな」 数学の教科書を持ち、そそくさと教室から出ていく小野先生。 ・・教授のオファー来たってホントなのかな。 私はため息をついた。
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