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カラン、コロン。
「いらっしゃいませ」
たかぽんに話を聞いてもらって学校から帰る途中。
私は気がついたら森にいて。
奥に家があったから入った。
中にいたのは、シルクハットを被ったスーツ姿の人。
「あの・・ここ」
「こちらは、願いが叶う喫茶店です。
僕は店主の町田と申します。
江田雪恵様、ようこそ。」
丁寧に、町田さんは頭を下げた。
不思議な人だ。
『・・・。ヨースケ、俺と代わってくれっ。』
『彼』が、僕の中で訴えます。
・・構いませんが、林道さんあなたはライブを終えたばかりですよ、疲れていませんか?
『大丈夫だ。出来る。
・・彼女に、願って欲しくないんだっ』
「父親を殺して」
私の願いはただ、それだけ。
町田さんはシルクハットの縁に手をかけ、顔を伏せた。
しばらくしてから顔を上げ、口を開く。
「・・どうしても、殺したいっ?
お父さん、凄い人だってわかってるよね?
色んな人たちの命を必死になって助けてきたんだ、笑顔にしてきたんだ。
キミの夢だって「皆を笑顔に」することだろう?医者だってそれが出来るんだよっ?
それじゃ、不満なのかなぁ?」
「お父さんが、素晴らしい医者だってのはわかってる。・・でも、私は教師になりたいんです。医者を強制されたくない、私の人生だから。」
町田さんの印象が変わった気がするが、気にせず私は言った。しかし、彼は引かない。
「『代償』は、キミの命だよっ?
死ぬんだよ、小野先生みたいな先生にはなれないよ?
・・・死んだら、何も出来なくなるよっ。夢も叶えられなくなる」
町田さんは、少し悲しげに言った。
命。
命がなくなったら、たかぽんみたいな先生にはなれない。
《皆で叫ぼう!せーの!「点P」!》
《よし、皆!体育祭お疲れ様だったな!走るぞあの夕陽に向かって!先生は自転車だけど!》
《さあ!今日は修学旅行だが皆、準備はちゃんとしてきたかな?おやつはバナナ以外なら500円までだぞ。
さてここで問題だ。タカシ君は500円を持って・・》
あんな、面白くて。
授業がわかりやすくて。
皆に慕われてて。
いつもニコニコしてる先生になりたい。
命がなくなったら、なれない。
でも。
「はい、殺して下さい。」
あんな父親、死んで欲しい。
私の弊害になるなら、命もいらないわ。
邪魔、しないで。
「・・わかったっ」
目の前に、紅茶を出された。
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