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漆黒に染まる鎌を持ち、江田先生に近づく。
その大きな刃が鋭く光る。
「・・・・。」
カタカタカタカタ
《・・林道さん、手が震えてますよ。
僕が代わりましょうか。
このビデオカメラなら、苦しませず出来ます。》
ヨースケ、大丈夫だ。
藤本のために、やらせてくれ。
俺はこいつを許したくない。
「あんた医者だろっ?
・・どうして助けてくれなかったんだ。
なあっ!どうしてだよ!どうして藤本を助けてくれなかった!
藤本は俺の・・たった1人の親友だったんだよっ!
あいつがいなくなって、俺は1人で芸人目指したんだ・・あいつのために、皆を笑顔にするためにっ!」
抑え込んでいた感情が溢れ出す。
魂だけの存在の『俺』だから、抑えられない。
江田先生は『俺』を見て話し始めた。
「藤本・・藤本和典君か。彼のことはよく覚えている。彼は当時の医療では治せない病だった。若輩者だった私は彼を助けることが出来なかった。勇気づける言葉しか言えなかった。
・・君の親友を死なせてしまい申し訳なかった。いくら謝っても君は許してはくれないだろう。
彼の死を無駄にしたくなかった私は、5年かけて原因を探った。
そしてついに、彼がかかった病を治す薬を作り出した。私は沢山の人達から「奇跡の医者」と呼ばれたが。
それは違う。
彼が・・藤本君がいなければ、今も沢山の人の命が失われていただろう。彼と同じ病で。
・・彼こそが「奇跡の医者」だ。
私は白衣に袖を通す時、患者を診る時、手術をする時。
常に彼と共にいるつもりで、この25年やってきたよ。彼に敬意を払いながら。
もう、今死んでも悔いはない。
彼と共に、空の上にいる患者達を治す時が来ただけだ。
すまなかったね、林道信太郎君。
・・25年もかかってしまったが、君に謝罪するよ。あの時、私がすぐに新薬を開発出来てたら君の親友は助かった。
本当にすまなかった。」
江田先生は『俺』に頭を下げた。
カラン
手から、死神の鎌が落ちた。
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