2 親友に会いたい

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「林道さん」 『・・・・。』 喫茶店で、紅茶を淹れながら僕は話しかけた。 僕の中にいる『彼』は、ボーッとしていた。 手に、緑色の帽子を持っている。それをずっと見てる。 『彼』にまとわりつく「闇」をはらう。 今はかなり弱っているみたいだから、常にこうやって見ておかないとすぐに連れていかれる。 「そういえば林道さんは、シルクハットを脱いだのをあまり見たことはないですね」 『・・・・。』 ダメか。 「マイさん、今日もキレイでしたよ」 『当たり前だろっ』 僕はそれを聞いてついつい笑ってしまった。 大好きな人のことになると、すぐ反応するんだなあ。 「マイさんの好きな食べ物、何でしたっけ」 『チーズケーキっ』 「そうでしたか?僕の記憶ではバナナケーキでしたがね」 『それは俺の好物だよっ。マイはチーズが好きなんだ。 今日は、チーズケーキを作って持って帰ろう。ヨースケっ』 「はい、林道さん」 『彼』は、僕の中で嬉しそうに笑ってる。 その緑色の帽子は、色褪せないでずっとそのままだ。 まるで、『彼』と親友の絆みたいに。 棚にある本を開く。 白衣を来た2人の男性と1人の女性が、天国で傷ついた人達を治して回っている。 1人は笑顔が印象的な青年。 1人は経験を沢山積んだであろう、おじいさん。 そのおじいさんの後ろに、医療道具を持った女性、江田様がいた。 タクさんが苦しませずに、彼女を天国に送ったみたいだ。 3人は傷ついた人達が元気になると笑い、沢山の医療道具を背負いまた次の場所へと歩いていく。 本の中で青年がふと振り向いて、僕に手を振った。 『俺を差し置いて相方2人も作るなんてさあ。 ・・そっちはそっちで「皆を笑顔に」してるんだな。俺も頑張るよ・・カズっ』 林道さんが話すと青年は笑って頷き、医療道具を背負ってまた歩き出した。 それを眺めながら、チーズケーキを僕は作り始めた。 沢山の医療道具は、天国の「奇跡の医者」に託され。 緑色の帽子は、現世の「皆を笑顔にする手品師」に託された。 僕も、頑張ろう。 小さく、決意した。
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