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LIFE=MATH。
『君は、ゼータ関数より魅力的だ。
出来れば、いつかリーマン予想が解けるまで俺と一緒にいてくれないか。
何があっても、君を守る。数学で論破するよ。』
『え?隆さん・・。』
公園で、妻の前で跪いて指輪を出した。
プロポーズした時のことを、思い出す。
文系の妻は明らかに戸惑っていたっけ。
「何笑ってるの?」
トンカツを箸で持ち上げたまま、俺は妻の顔を見た。ずれたメガネをくいと上げる。
「ちょっとさ、君にプロポーズした時のこと思い出して」
「ああ、あの意味不明なプロポーズね。理解不能の。」
「どうして、その理解不能で意味不明な俺のプロポーズを受けてくれたんだ?」
それを聞いて、ふふ、と妻は笑う。
「あなたのその情熱的な所に折れたのよ。
『リーマン予想が解けるまで、一緒にいてくれ』なんて。未解決問題よね、それ。
あなたが解くつもりだったのかしら?」
言われて顔が赤くなる。
「そ、それは・・。一生、俺と一緒にいてくれって意味だよ・・。
数学に例えたら恥ずかしくなく言えるんだよ・・」
「あなたは数学が大好きね。さすが数学の先生。」
「小学生の時から好きだったんだよ。」
顔を真っ赤にしながらトンカツを食べた。
「それでね、あなた。話なんだけど」
「ま、また今度に・・してくれないか」
「うん、そうよね。疲れてるもんね。ごめんね。」
「い、いや。俺こそ大事な話なのにごめん」
何か、怖い。
俺は、妻に尽くしてきた自信がある。
でも、ちょっとイヤな部分があっただろうか。
確かに最近は忙しくて構ってやれてなかった。
生徒達に目が行っていたのは認める。
プライベートでも、確かに生徒達の家に行ったり食事に行ったりカラオケもした。
しかし、決してイヤらしい目で見ていたワケではない。
悩みを聞いてたんだ。
生徒達は、俺の子供達みたいなもの。
1人1人が、大切な存在なんだ。
妻だって、わかってるはずだ。
でも。
「離婚してほしいの」
その言葉だったら。
不安を解消したい。
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