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風を見つけた
殆どの運動部にとって中学最後の大会となる中学総体。
陸上部の3年生にとっても、この総体が引退前の最後の公式戦だ。
その総体の地区予選、800mに出場する幼馴染の応援のため、児玉宏樹は隣町の市営陸上競技場にきていた。
県大会出場も見据えていた幼馴染、山田太一から、『最後だし、お前も一度くらい見に来いよ』と誘われていたのだ。
『まあ一度くらいは見に行ってやるか』と応じた宏樹は、最初は午後の二次予選から見に行こうと思っていたのだが、『朝から見に来いよ』との太一の言葉に、眠たい目をこすりながら、一次予選にやってきた。
太一にとっては、なんとなく覚悟はあったのかもしれない。
だから、『朝から来いよ』なんて言ったのだろう。太一は、午前中の予選であっさりと敗退してしまった。
2位までが二次予選に進めるところ、3位になってしまったのだ。
一次予選のため、3位以下から好タイム順に繰り上がる敗者復活も無く、地区の一次予選というあまりにも早いタイミングで、太一の中学における陸上競技生活は終わりを告げた。
太一にとってもかなりショックだったらしく、競技終了後も、スタンドに陣取っている部員や保護者の応援席になかなか帰ってこないので、宏樹はひとりぼっちで放置された状態になっていた。
宏樹は太一の応援に来ただけで陸上部員でも何でもないので、太一が敗退した時点で帰ってもよかった。
だが宏樹は帰宅部なので、このあと特に予定もない。
「まあヤツも陸上は今日で最後だし、帰る前に一言かけてやるか」
そう考えた宏樹は、太一の顔を見るまでここに残って待つことにした。
中学の総体は地域によってその開催スタイルが異なるのだが、概ね初夏から地区予選が始まり、県大会、全国大会へと繋がっていく。
参加校の少ないマイナーな競技などは、県大会の後、全国大会の前に地方大会が挟まるケースもある。
ただ、いずれにしても負けた段階で3年生は即引退。
3年生は、いかにして引退を先延ばしにするか。下級生も、3年生をいかに盛り上げていくか。(場合によっては、いかに追い出すか)
夏を前に、汗と涙と青春の、15歳の熱い戦いが繰り広げられるのだ。
宏樹はというと、中学2年の春に重度の“厨二病”を発症。
発言の一つ一つがいちいち芝居がかり、先輩に対しても空気を読まずに痛い発言を繰り返した結果、キレた先輩と揉めて野球部を退部。
それ以来全く部活をしていなかったのだが、厨二病が治った今となっては、クサいながらも、スポーツに学校生活の全てを賭けるかのように熱く戦っている同級生が、少し羨ましくなっていたのだ。
野球部を辞めた後の中2の夏、宏樹と揉めた先輩達が引退した際に、野球部の同級生から、「野球部に帰ってこいよ」と声を掛けてもらってはいたのだが、たった3ヶ月離れただけとはいえ、一度折れてしまった野球への情熱を取り戻すことは難しかったのと、当時、厨二病お決まりの、ゲームにどっぷりハマった生活を送っていたので、そのまま帰宅部としてずっと過ごしてきた。
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