風を見つけた

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エリがアップに向かってしまったので、ほかに知り合いのいなくなった陸上部のテントは、急に居心地の悪さを増す。 助けを求めるかのようにしきりに太一を探すが、まだ失意の淵から帰ってきてないのか、一向に見当たらない。 文字通り“部外者”の自分がここに座っていると、他の部員や保護者から、“なんでこの人ここにいるの?”と思われてるんじゃないだろうかと、気が気でなくなった宏樹は、スマホをチラ見して白々しく“アッ”と声を上げると、急用を思い出したフリをして立ち上がる。 近くにいた保護者に黙礼してテントを飛び出すと、一旦その保護者の死角に回った上で、ワザと大回りしながら、こっそり、スタンドの最初見ていた元の位置に戻った。 相変わらず初夏の日差しはガンガンと照りつけて、鼻の頭が少しヒリヒリし始めていた。 “太一も帰ってこないし、ここで待ってても暑いし、まだ松本の出番も来ないし、ちょっと日陰でも行くか” 再び立ち上がった宏樹は、スタンドを降りると日陰を求めてスタンド下のコンコースに向かった。 スタンド下に降りてみると、さまざまな学校が日陰でストレッチしたりジョギングしたりと、来るべき自分の出番に向けてアップしている姿が目に入ってくる。 学校指定の体操服を着ている学校もあれば、カラフルなお揃いの練習用Tシャツを誂えている学校もある。 よく見てみると、一番近くでアップしていた集団のお揃いのシャツのその背中には、『感謝』とか『信頼』とか結構“熱い”文字が躍っている。 さっきすれ違った集団の背中にはかなりポエミーな長文で、陸上競技にかける想いが書かれていたりもする。 「ああいうのって、誰のセンスなんだろうか」 宏樹が所属していた野球部にも、代々3年生が引退し2年生の新チームになった時にそういうプラクティスシャツを作る伝統がある。 だが宏樹は新チームになる前に退部しているので、そのシャツは持ってない。 今は治ったとはいえ、その頃はちょうど厨二病を発症していた盛りの頃だから、もし自分が野球部のシャツをデザインする立場だったら、どエライものを作ってしまっていたかもしれない。 そして将来、その熱が冷めてからそのシャツを見るたびに、恥ずかしさで身悶えするのだ。 他校の陸上部のシャツの背中を眺めながら、“シャツを作る前に野球部辞めていて良かった”と、宏樹は心から思った。
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