5人が本棚に入れています
本棚に追加
「とにかく、早くここから出ねぇと――」
そう、言葉を発した瞬間。
トス、トス、トス
何かが動く気配があった。
足音、にしては静かで
生き物、にしては軽さがあって
僅かな光の中で目を凝らすと、動いている影は通常の人間の3倍以上の大きさだった。
その影は、一定のリズムを刻んで光の中に現れる。
その姿に、俺は――多分、変な顔になった。
「ぬいぐるみ?」
それはそれは、つぶらな黒い目が輝く可愛らしいぬいぐるみだった。
ただ可愛いのはその顔立ちともこもことした体形だけであって。
大きさと、持っているものは可愛くなかった。
巨大な斧、剣、槍――――
それを可愛らしい手に、ぶらんと力なく持って近づいてくる姿は、とても可愛いとはいえるものではなく。
むしろ、その可愛さが恐怖を駆り立てる。
「ここの主は……本当、いい趣味しているようで」
熊は斧、兎は剣、象は槍。
3匹のぬいぐるみは、2本の足でしっかり歩き、血濡れのそれらの武器を手に、ニコニコとしたぬいぐるみとしてぴったりの顔で近づいてくる。
逃げないと、やばい。
咄嗟にそう感じ、俺はぬいぐるみたちに背を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!