風になった俺

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「こんにちは。ご無沙汰してます」 「タケオくんじゃない!サトルくんも!まあ~嬉しい。来てくれたのね」 シンとした墓場に響き渡るようなでかい声。化粧っ気もほとんどなく、ずんぐりとして背の低い、世界中のどこにでもいるようなおばさん。その隣でシケたツラに慣れない笑顔を浮かべる白髪交じりの痩せた中年男と、生意気にあごひげを生やして無理やり大人ぶっている、その辺に似たようなのが100人はいそうな大学生の青年。 「お久しぶりです」 サトルくんが頭を下げると、身体を少し傾けて、猿のようにしがみつく俺の顔をよく見えるようにした。 「あと、あの……お葬式には連れてけませんでしたが、弟です」 「うわあ、ちっちゃい!かわいいわね~!お父さん見て、ほら、タケオくんたちの末っ子!この子なのね~、会いたかったのよぉ!ボク、こんにちは、初めまして。お兄ちゃんたちと来てくれてありがとね」 母さんの丸い目が、俺の顔をまじまじと見る。ああ、相変わらずリアクションがでかい。誰にでも馴れ馴れしくて、物怖じしなくて、うっとうしくてやかましい。おばさんという生き物の代表みたいな存在。 「母さんあんまりデカい声出すなよ。あと顔近づけすぎ。赤ちゃんびっくりするだろ」 ヒロトの生意気さも相変わらずだ。父さん譲りのつまらなそうな仏頂面も、ボソボソと低い声でしゃべるところも、本当に昔から憎たらしくて、サトルくんみたいなかわいげなんかカケラもない。でも、ヤツも俺を見て笑ってる。サトルくんに会えたから嬉しいのもあるんだろうが、「すげーちっちゃいなあ、こんにちは。」と、俺には見せたことのない爽やかな笑顔で、俺の目をしっかり見てくれた。 「ヒロト、久しぶり。全然会えなかったね。元気だった?」 「うん。……サトル、たまにはまたうちに来いよ。兄ちゃんいなくてもゲームとか漫画は残してるから」 「ありがとう。夏休み入ったら遊びに行くよ」 ヒロトはまた、俺に見せたことのない嬉しそうな顔でうなずいた。 「かわいいなあ、お名前は何ていうの?」 父さん、間近で見るとこんなにシワだらけだったのか。赤ん坊の俺から見なくても、もうすっかり孫がいそうなじいさんじゃないか。タケオのお父さんとそんなに年は変わらないはずだが、それよりずっと老けて見える。 「コウキっていいます。8月で1歳になるんです」 「まあ、そう。コウキくんっていうの。お兄ちゃんたちに似てもうイケメンね」 俺は笑いも泣きもせず、ただ目の前の家族をじっと見つめるだけ。ヒロトが「ほら、母さんのせいで怖がってる」と言ったが、俺はいま自分の感情がよくわからない。 「タケオくんたちも来てくれたんだね。嬉しいよ。わざわざありがとう」 「ノリと俺、誕生日は毎年うちに集まって、お互いにしょーもないモノ贈りあって祝ってたんで。そうそう、ケーキは持ってこれませんでしたけど、これもし良かったら……春に親が長崎に行ったんですけど、そこの地酒です。ノリオに持ってきたんで、あとで皆さんで飲んでください」 「いいのかい?嬉しいなあ、ありがとう。……ノリオ、タケオくんたちが友達で本当によかったな。誕生日覚えててくれたんだ」 そっちを見るなよ。俺はここだ。父さん、俺は……
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