お母さんといっしょ

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昼を過ぎると、天気が良ければ用事がてら散歩に行く。雨が降れば車だが、晴れていればベビーカーだ。支払いやら検診やら夕飯の買い物やら、お母さんは地味に毎日やることがあり、出かけるところも色々とある。だが他の乳児たちのお母さんより少し年上なせいか、たまに病院の待合や公園などで若いお母さんたちの群れに遭遇しても、交わることはない。みんな20代と思われる中、四十路を過ぎたお母さんは下手したら「おばあちゃん」の年齢でもおかしくないのだ。だがこの年齢ですでに社会人の息子がいると聞けば、若いお母さん方だって驚くだろう。俺のことは高齢出産でも、お母さんもかつてはこの若いママ軍団の一員だったはずだ。 ……そういえば、タケオのお母さんて何歳だったっけ?かなり若くて、聞いたときにけっこうびっくりした記憶がある。タケオがなぜかあまりそのことに触れられたくない感じがしたから、それ以降は触れてないけど。でも確か、そのときのタケオの年齢からさかのぼれば、タケオはお母さんが10代の時の子だったはずだ。俺は母さんが30を過ぎてできた子供だから、俺の母さんとタケオのお母さんでは10歳以上の開きがあったはずだ。 でもタケオのお父さんは50を過ぎている。見た目でいうなら50半ばといったところか?俺がお父さんに抱っこされてたら、通りすがったどっかのおばあさんに「あらいいわねえ、おじいちゃんとお散歩?」などと言われて、お父さんは少し顔を赤くして訂正していた。しかし無理もない、お父さんと一緒にいたら、誰の目にもじいさんと孫に映るだろう。タケオだってまさか俺の兄貴だとは思われまい。どう見てもタケオが俺のパパなんだから。 お母さんとお父さんは年の差婚をしたのだ。その年でまた赤ん坊ができるとは思わなかっただろう。長らくできることがなかったから、きっと「油断」しきっていたのだ。だが、この年でも「そういうこと」をしているわけだから、仲の良いご夫婦なんだなと思う。俺の親なんて……おっと、いらんことを考えるな。親のセックスなど想像したくない。 お母さんは四十路を過ぎてはいるが、見た目だけならまだ30代で充分に通用する。初めて会ったのはサトルくんに会った日と同じだが、そのときはきちんと化粧をし、巻いた髪をアップにして、爪にもマニキュアを塗って、黒いワンピースがこの長身によく似合っていて、サトルくんと同じくらい「圧倒」されたのを覚えている。みんなのお母さんって家でもこんなに綺麗にしてるのか?と驚愕したが、タケオのお母さんがそういうことに気を使う類いの女の人である、というだけだ。スーパーに行っても、タケオのお母さんのような人はいない。 これも昔タケオからちらりと聞いたところによると、お母さんはすでに主婦として暮らしてはいるが、その当時からさかのぼって何年か前までは飲み屋で働いていたそうだ。それを聞いて、だから未だにこんなに身綺麗にしているのだろうと納得できた。飲み屋というのは、そこら辺のリーマンのおっちゃんたちがワイワイやるような赤提灯の店ではなく、詳しくは聞かなかったが、おそらくもっと高い酒を高級な雰囲気の中でゆっくり飲むような店だろう。
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