変なお兄ちゃん

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「サトルはコウくんに取られちまったんだな」 また気味の悪いことを言っている。いくら兄貴だからって何を偉そうに。弟だからってサトルくんはもともとお前のモノでも無いぞ。もちろん俺のモノでもないし、取っているつもりもない。サトルくんは俺が愉しむための偶像のような存在ってだけだ。すなわち理想像を保持しつつ欲求を満たして癒してくれる風俗嬢みたいな……って、ああダメだ、うっかり最悪な例えをしてしまった。もはやアイドルというくくりですら無くなってる。違う違う、サトルくんは決して手に入らない、俺の永遠のアイドルだ。乳を吸うのだってもうすぐ卒業しなければと考えてたところなんだ。本能とか綺麗事を言ってごまかしてたが、やっぱり立場を利用した只のゲスな欲求だということに気がついてしまったからな。 「そういえば、コウちゃんのベッド、僕の部屋に移動させなきゃ」 タケオの発言を受け流すように、サトルくんがつぶやいた。 「あとで俺が運んどくよ」 「ありがと」 「コウくんも固まっちまったし、先に出るな」 「うん…」 悪いなタケオ。お前のことが嫌いなわけじゃなく、お前の裸体を間近で見たくないだけなんだ。わかってくれ。 「俺がいなけりゃ、サトルに好き放題できるもんな」 背後でザバリと立ち上がる音がする。 「なあ」 「ん?…んっ…」 ……何だ?いきなり陰って、頭上からポタポタと水滴が垂れてきた。俺を抱くサトルくんの腕が、一瞬だけぎゅっと強まる。タケオ、いまサトルくんに何かしてんのか? 「ベッド運んどくな」 「……うん」 バスタブからあがり、タケオはあっさり浴室から出て行ってくれた。やっと悪夢の時間が終わり、ふうーと長い息を吐く。そのためいきが、サトルくんとシンクロした。もちろん俺の呼吸なんて、大人からしたらほんの一瞬の短さしかないけど。 「……変なお兄ちゃんだね」 ようやく見上げたサトルくんの顔。のぼせたように頬が赤い。なぜだろう?この顔もかわいいのに、なんだかすごく嫌な顔だ。 ああこの感覚。無邪気であどけなかったさとっぴが、何となく大人になっていってることにふと気づいたときに似てる。雑誌のグラビアで急に垢抜け出したなって感じたとき、可愛さがグレードアップしてるはずなのに、なぜだかそれがうれしいとは思わなかった。 いま、ふたりとも何したんだ?そもそもタケオはどうして平気で弟の入浴に乱入できるんだ?タケオは俺の前ではいい男なのに、家では変な兄貴だったのか?でもこの家にもう8ヶ月は暮らしてるけど、何も変な素振りなんて見せたことなかったぞ。 ……もしかしたら、サトルくんとふたりきりのときにしか見せない顔が、もっと他にもあるんじゃないか?将来を憂う弱気な顔とは別の、もっと隠された顔が…… 「変とは何事だ。俺ほど弟思いの兄貴なんかよそにいないぞ」 脱衣所からタケオが言うと、サトルくんが「はいはい」と適当に返した。 ペタペタと足音が去っていくまで、俺は緊張がとけなかった。脱力した瞬間尿意がこみ上げ、いいかげん熱かったのもあって、俺もサトルくんに「もう出たい」というようにじたばた動いてアピールをした。バスタブから出た瞬間小便をしてしまって、間一髪だったが、せっかくの至福の時間が台無しに終わった。
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