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ときどきあることだが、今夜はサトルくんの帰宅が遅かった。大学生の彼は、当然だが遊びたい盛りだ。春休みには旅行にも2回ほど出かけてたし、「ノリオ」とはまったく異なるバラ色の青春まっただ中なのだ。
お父さんもお母さんも、当然だが成人した息子に対して夜遊びや外泊を咎めることはない。そんな環境でも俺の顔見たさで「今日はやっぱり飲み会断ってきた。」と言っていつもさっさと帰ってきてくれたサトルくんは、いいお兄ちゃんなのだ。だから俺などに構わずもっと気がねなく学生生活を謳歌してほしいな、と赤ん坊の弟の俺がしみじみ思っている。
けど、会えないのはやっぱり寂しい。俺の楽しみがサトルくんしか無いから、毎晩彼と風呂に入りたいし、「あーん」もしてもらいたい。
タケオも残業があったり、会社帰りに上司の「お供」があったり、同僚との飲み会があったりで、毎晩帰るのは遅いし俺が寝たあとに帰ってくる日も多いが、それに関しては特に気にならない。お父さん共々身体を壊さないようにしてほしいが、2人の兄のあいだにこれほどの格差を設けるとは、俺も非情な弟である。だが今日は俺が起きているうちに帰ってきて、リビングにやって来るなり「サトルは?」とお母さんに尋ねていた。
「サトル?まだどっかで遊んでる」
「泊まり?」
「ううん、帰ってくるわよ」
「そう。春だから飲み会とか多いんだな」
「そうじゃない?」
「駅ついたら、車出してやるかな」
「何時になるかわかんないわよ」
「でも遅くなると、暗いし危ないからさ」
大学生の弟の不在を、タケオのほうが親のように気にかけている。妹ならまだしも、弟に夜道の心配をするのは妙だと普通は思うだろう。しかしサトルくんはさとっぴに似ていたせいで変なヤツに付きまとわれたことが何度かあり、タケオもそのたび心配していたから、未だに彼の夜遊びなどには敏感なのだ。成人した男とは言え、あの子には夜道で襲われて抵抗できるような屈強さもない。兄貴としては、サトルくんはきっといつまでも守るべき存在なのだろう。
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