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公園の池デビュー
翌日の夜。家族の様子がいつもと違った。
原因は昼に受けた電話の内容で、なんとも残念なことにお父さんとお母さんの共通の友人が亡くなってしまったらしい。
ー「お世話になったし、弔電だけってわけにはねえ」
お母さんが顔を曇らせるのはもちろん友人の不幸もあるが、遠いところに住んでいるその人の葬式についてのことでもあった。タケオが「どこに住んでる人なの?」と聞くと、「長崎なのよ。」と言っていた。東京からでは飛行機の距離である。つまりお母さんは、俺を連れて長旅をすることに躊躇しているのだ。俺は別に九州に同行しようが留守番をしてようが構わないが、それを彼女に伝えるすべは残念ながら無い。
「ちょうど今度の土曜日で、お父さんも行けるみたいなんだけど、コウちゃんにはちょっと遠すぎるからね」
お父さんだけ行ってもらおうかしら、とお母さんが言った。だが悲しみに打ちひしがれた顔をしており、俺としてはそんなに大事な人ならぜひ行ってやってほしいと思った。試しに「俺のことはいいですから」と言ってみたが、「んまんま」しか出てこなかった。するとサトルくんが俺の気持ちを代弁するかのように言った。
「土日でしょ?僕うちにいてコウちゃん見てるから、行ってきなよ。仲良かったのに、行かなかったら悲しむよ」
ナイスな判断だ。そのとおり。俺は自分の葬式に誰が来たのか知らないが、仲の良かった友人らや親友のタケオが来てくれなかったら、あまりにも悲しい。
「でも……」
「そうだよ母さん、俺も今週はまだ忙しくないし、大人2人で見るんなら問題無いだろ」
タケオも援護し、お母さんの九州行きを後押しする。
「いつもやってることなんだから、大丈夫だって。母さんがいなくて泣くかもしれねえけど、2日くらいならどうにかなるよ」
「うーん、そうねえ。……大丈夫かしら」
「サトルさえいればコウくんは平気だ。俺だけだったら無理かもだけど」
タケオのやつ、さすがは俺のいちばんの友達だ。俺のことをよくわかってる。
「俺だってノリオのこと聞いたとき、ハワイも途中で中止して速攻で帰ってきただろ。世話になったんなら何があっても最後くらい行かなきゃダメだよ」
なんと、そうだったのか。盆休みを少しずらすとか言ってたが、生まれてくる弟のためでなく、その休みでハワイに行ってたんだな。お母さんの懸念とハワイ旅行とは少し違う気もするが、いずれにせよ悪いことをしたものだ……。
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